研究紀要第42号 教育相談における心理検査の活用 - 019/029page

[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

(2) 自閉的な子供

1.はじめに

 織黙(かんもく)の子供と自閉的な子供とが,よく混同されることがある。織黙の子供が,人に話しかけられても反応を示さず,無表情で,きわめて消極的であるために,自閉的な子供と間違いられると思われる。

 ところで,自閉的な子供(自閉症)は,緻黙とは全く区別され,次のような状態像が見られるのが特徴である。

(1) 対人関係がうまくできない。
 名前を呼んでも何の反応もなく視線も合わない。自分のからに閉じこもり,他の人との交流が少なく,無関心,無表情でひとり遊びが多い。他人のしぐさを模倣することもできない。

(2) 言語発達がおくれている。
 コミュニケーションの目的に,言葉を使おうとしない。たまに使っても,人の問いかけにオーム返しをするだけで,意味のある会話がもてない。自分の要求は,言葉で表現せずに,人の手首をつかんで目的地に引っ張って行く行動に出る。

(3) 多動である。
 いつも動きまわり落ち着きに欠ける。高い所へも平気でよじ登り,親が目を離すと勝手に家をとび出し,迷子になることもある。

(4) 同じ状態を固執する。
 自分の思った通りに,きちんとしなければ気がすまない。ものの順序,置き方,歩く道順等は,常に一定(同一保持)であり,他人にこれを乱されるとかんしゃくを起こす。食事も自分の好きな物しか食べない。

(5) 記憶力がすぐれている。
 車の種類,数字,道順,テレビのコマーシャル等をよく覚えている。

 その他,場所を考えずに排泄したり,奇声を発する,においをかぐ等の特異な行動がみられる。
自閉的な子供の特徴については,1943年,米国の児童精神医学者カナーによって,早期幼児自閉症という概念で提起されて以来,多くの人々が注目し,自閉的な子供の発達の経過とその転帰が明らかになってきている。最近は心理・社会的要因だけでなく,認知機能,言語機能といった,何らかの脳機能障害と見る人たちが多くなっている。

 本事例では,現在継続中のものであるが,「自閉的な子供発見のためのチェックリスト」や「親子関係診断テスト」等の心理検査の活用によって子供の状態像を明らかにし,遊戯療法の結果から少しずつ変容していく姿を紹介したい。

2.事例

(1) 主訴 自閉的な行動

(2) 対象 U.S 男子 3歳

(3) 問題の概要

@ 昭和55年7月来所。話しかけても反応がなく,視線も合わない。
A 遊びが固定し,他のものには見向きもしない・従って,近所の子供と一緒に遊ぶことができない。
B 言葉はあるが語い数はきわめて少なく,言葉の理解ができず会話にならない。
C 福島医大神経精神科医に「自閉性症候群言語発達遅滞」と言われる。
D 表情がなく行動が鈍い。手先無器用である。

(4) 資料・情報

@ 生育歴
ア.胎生期・出産時には異常が認められない。
イ.出産時の体重は,4,000gで過重児である。
ウ.1歳半の時,言葉がない,まわりのことに関心を示さない等から,耳に異常があるのではないかと心配になる。保健所で相談を受け,耳に異常がないことがわかる。
エ.2歳の時,県精神衛生センターで相談を受ける。この時,福島県立医大の医師より「自閉性症候群」と言われる。脳波検査も実施するが,特別に異常が認められない。

A 家族構成及び家庭環境
ア.父:35歳,会社員,仕事熱心で日曜日も出勤し,本人との接触が少ない。
ウ.母:28歳,家事従事,感受性に乏しく子供の養育に関心がうすい。


[検索] [目次] [PDF] [前] [次]

掲載情報の著作権は福島県教育センターに帰属します。
福島県教育センターの許諾を受けて福島県教育委員会が加工・掲載しています。