研究紀要第42号 教育相談における心理検査の活用 - 026/029page

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(4) シンナー等乱用

1.はじめに

 人はいろいろな欲求を持って生活している。これらの欲求が満たされれば心の緊張は解消し,適応した行動へとすすむ。欲求が満たされない時には,不満はつのり,心の緊張が続きいろいろな不適応行動となって現れる。

 欲求が阻外される要因には,個人自身からくるもの,人間関係によるもの,環境によるもの等があり,多くの場合,これらが複雑にからみあい不適応の現れ方も多種多様である。
 特に中・高校生の年齢は,子供から大人への過渡期,すなわち青年期にあたり,そこには親からの独立,自己の発見,そして同一性の確立等の課題も多く,適切に防衛機能を働かすことができず不適応に陥ってしまう子供も少なくない。

 不適応の問題行動の一つにシンナー等の乱用がある。最近,特に中・高校生の間に広まってきており,その子供たちの背景には,家庭の養育上の問題,学校不適応の問題,社会的風潮の問題等,いくつかの問題が混在し,解決は難しい。
 シンナー等乱用の進み程度は,吸引回数・頻度動機及び関連非行等から表1のような三段階に類型化を図ることができ,それぞれの治療の方法も異なる。

表1 シンナー等乱用少年の類型
特     徴
指     導





(初期)
○吸引期間 1ヵ月以上1年以内
○吸引頻度 月1〜2回
○動  機 好奇心,友人との交際手段(一過性の場合が多い)
集団でやる場合か多い。
   
○性  格 特徴なし
○家庭環境 特徴なし
○有害性を理解させる。
○映画・スライド
 初回乱用時の不快感をサポート
○興味を他のものに転換
 ・余暇の利用
 ・趣味の再発見
○交友関係の調整
○監視のチェックの強化





(中期)
○吸引期間 1年以上〜1年半
○吸引頻度 週1〜2度
○動  機 仲間との同一化・模倣
欲求不満、暇つぶし
(以前より何らかの非行あり)
5〜6人でやる場合が多い。
   
   
   
○性  格 反社会的未成熟
自信,意欲及び忍耐力の欠如
怠惰・付和雷同
夜遊び,社会より脱落
   
   
○家庭環境 放任・無関心・過保護
○そ の 他 不良交友〔怠学・喫煙等)
不純異性交遊
○自己の認識の甘さ・性格の弱さの自覚
○映画・スライド
 肉体が侵されるという直接有害性を強調するほうが効果的。
○交友関係の調整



(常習)
○吸引期間 1年半以上
○吸引頻度 隔日,毎日(習慣的)
○動  機 幻想の世界を求めて仮の安定を得ようとする乱用
(心理的依存が見られる)単独で吸引するのか多い
○性  格 神経症的
吸引時の快感が忘れられず,白分でやめようと思っても,意志が弱いので叱られてもやってしまい,癖になりやすい。
○家庭環境 吸引時の快感が忘れられず,白分でやめようと思っても,意志が弱いので叱られてもやってしまい,癖になりやすい。
○生活態度の改善−精神的自立
○カウンセリング
○矯正教育 少年院
教護院
○隔離療法―精神病院人院

 ここでは,センターに来所したシンナー等乱用生徒のうち非行促進型の事例について,本人及び母親に実施した心理検査及び面接から,問題行動を分析し,援助指導を試みたものを紹介したい。

2.事例

(1) 主訴 シンナー等乱用

(2) 対象者 W・K 高校2年男子 16歳

(3) 問題の概要
 昭和55年8月来所。高校1年の夏休みに有職少年にさそわれ,数名で初めてシンナーを吸引し,その後,回数も増え,来所時には,毎日吸引している状態であった。悪いと知りつつも,友達に誘われ,めいてい状態に浸っていた。

 また,学習意欲もなく無断外泊・バイクの無免許,喫煙・飲酒等も行っており学校不適応にあった。

(4) 資料・情報

@ 生育歴
ア.胎生期,乳幼児期には特に問題はない。
イ.中学1年時に父親が死亡'(交通事故)。
ウ.中学2年時に4カ月間(6月〜9月),新聞配達を行った。

A 家族構成及び家庭環境
ア.母:37歳,酒販売業,店の仕事におわれ子供の養育は放任状態である。
イ.妹(中1),弟(小1)

B 諸調査・検査
子供の問題行動を理解するためのテスト・ハッテリーとその結果は,図1の通りである。

(5) 診断

@ 中学1年の青年期前期に父親の死で精神的にかなりのショックを受け,寂しさに打ちひしがれ望ましい父親像が学習されなかった。

A 放任家庭であり,母親には本人の気持ちはあまり理解させず,愛情欲求が十分に満たさ


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