研究紀要第45号 「学校経営改善に関する研究 第1年次」 -002/063page
にとらえる静態的な把握から,計画―実施―評価の各過程を一連のもとにしてとらえ,そのダイナミックな動きを重視する動態的な把握へと変わることが求められるのではないだろうか。本研究もこのようなダイナミックな教育課程の展開とその効果を問い求めることの必要性を理解したうえで「教育課程の経営」についての調査研究を進め,課題の究明を図ろうとするものである。
伊藤和衛氏は,教育課程管理の現状について,「(前略)・…おおまかにいって,教育課程の管理は,その計画管理,実施段階における授業管理,そして評価管理のどれ一つをとってみても,近代管理としてのマネージメント・サイクルに合致しないというべきであろう。即ち,計画と実施,実施と評価,評価と計画,これらの各段階には深い断絶がある。従って,教育そのものが効率化しないわけである。……(中略)・…‥特に,教育課程の管理においては,評価管理が有効適切にはたらいていなければならないのに,学校管理の現実においては,この点が“ゼロ”にちかいといえるだろう。」(註2)と述べ,教育課程の計画(Plan)―実施(Do)―評価(See)に問題点のあることを指摘している。
また,当教育センターの紀要第43号でも「(前略)‥……教育課程を編成する時期には,組織的に全精力を傾注して,学校数育の総合計画を作成するが,その実施―評価の過程ではどうであろうか。年間指導計画への関心や活用の度合い,学校行事への創意工夫やマンネリ化の問題など,作成時の努力や意気込みに比べると,実施・展開面では惰性に流されてしまう傾向もしばしば見受けられるところである。‥‥‥(中略)・…‥特に,評価の過程は,次年度の教育課程の編成と直接かかわる問題であるだけに,慎重な態度で取り組み,次年度教育課程改善のための十分な資料を得るための評価活動を展開しなければならないのに,実際には,最も問題があるように思われる。」と述べており,教育課程をPDSのマネージメント・サイクルで考えたとき,計画過程に比して,実施・評価の過程に問題があることを指摘している。
これらのことは,単に教育課程の問題だけにとどまらず,学校経営全体にかかわる大きを問題であり,学校教育の質的転換と教育活動の充実をめざす教育課程の基準の改善の趣旨にも大きくかかわる課題であると受けとめることができよう。教育課程の編成過程にのみ全力を注いでも,実施過程の日々の授業や実践の過程と,評価での具体的な改善策を生みだす過程をおろそかにしては,創意ある教育課程の計画改善は望めず,ひいては,学校教育の質的充実も,教育の実質的効果も期待できないことを意味するものであろう。
本研究の意図は,昨年度までの「学校経営評価に関する研究」との関連でとらえ,学校経営におけるP−D−Sを教育課程にまでおろして考え,学校教育の効果を高めようとするところにある。特に,マネージメント・サイクルの各過程を重視し,計画立案過程にのみかたよることなく,実施―評価の過程にも十分配慮した「教育課程の経営」の実際について究明しようとするものである。即ち,教育課程がマネージメント・サイクルに乗らない学校が多いという現状を反省し,経営的発想に基づく教育課程のP−D−Sはどうあるべきかを,教育現場の具体的問題に対処しながら調査研究を進め,現実の課題にどのように迫るかが本研究の趣旨といえよう。
これまで述べてきた,本研究のねらいをまとめると,次の二つに集約できるであろう。
1.教育課程の経営についての意義や機能など,基本的を事項についての解明と,その実際についての実証的を研究
2.教育課程の基準の改善により展開されている新教育課程にかかわる実態調査に基づく問題点の把握
上記の二つのねらいを主軸として調査研究を進め,その成果や具体的資料を教育現場に提供し,明日からの各学校の教育課程及び学校経営の改善に役立たせたい。
註1「教育課程基準の改善の基本方向」(明治図書)
註2「教育課程の目標管理」伊藤和衛著(明治図書)