研究紀要第49号 「登校拒否タイプ別治療方法の研究」 -003/038page
に満ちたものになっていることを,周囲の人たちは感じとるべきであろう。
2.登校拒否のメカニズム
(1)登校拒否を起こす原因
登校拒否の原因はいろいろ考えられるが,決定的にこれという決め手はないといわれている。しかし,子供の性格特性などを調べてみると,登校拒否児としての共通した傾向をみることができる。
そこで,登校拒否を,個人的な現象としてみるだけでなく,広く社会的な現象としてみていくことは,複雑な原因を探究する上で,大切なことであり,必要なことでもある。1 個としての問題性
登校拒否を起こす子供の性格特性について,小泉英二氏は,内気で引っ込み思案で社会性に欠け,対人関係では感じやすく,自我がたやすく傷つけられやすい。従って,集団内では控え目で受動的であり,社会的な場では,自己抑制的であると述べている。
また,佐藤修策氏も,下表のように,性格・行動の特性を挙げている。
表1 子供の性格・行動の特性
性 格 行 動 活気に欠ける
消 極 的
無 力 的
内 向 的
小 心
弱 気
心 配 性
ま じ めきちょうめん
無 口
非 協 力 的
友人が少ない
人 に 頼 る
わ が ま ま
やさしすぎる
このような性格特性を持つ子供は,学校や家庭の中でのさ細なトラブル(テストや給食,教師・友人関係,親のしっ責等)が引き金となって,登校拒否を起こす例が,多いようである。2 家族関係の問題性
子供の性格特性は,生まれつきの気質の上に,家族関係という,最も重要な影響を与えている要因によって,ある程度,形づくられるということができる。そこで,登校拒否を起こすような子供の家族関係をみると,次のようなことが浮かび上がってくる。
両親の関係は,相互に期待するところが合致せず,生活目標・人生の態度に,大きな相違があるままで調整されず,お互いが共有的・相補的傾向に乏しいため,不信感や不安状態に陥りやすい。そのため,子供は,どちらか一方の親を軽くみるようになり,片親同然の心理,つまり,心理的不在感を持つようになってしまうのである。
また,甘やかしすぎの母親と,無力で受身的な父親のもとでは,子供は,わがままで強情,自分本位であり,家を離れた学校のような社会的な場では,臆病で消極的になりやすい。その反対に,厳しく支配的で口やかましい母親と,受身的な父親のもとでは,子供は,家では受身的で従順であるが,外では臆病であるか,攻撃的になりやすい。
これらをまとめてみると,
父と子の関係は,ア.母性代行的な父親,イ.父子関係の弱い父親,ウ.社会的には活動しているが,心理的に不在の父親。
母と子の関係は,ア.服従型の過保護,イ.支配型の過保護,ウ.固着的過保護。
のタイプになる。3 地域社会の問題性
個及び家族関係の問題と同時に,登校拒否の背景として,社会情勢も切り離して考えることはできない。
登校拒否が注目されるようになったのは,経済構造が,高度成長経済政策のもとで,大きく転換した時期である。物資の過剰供給は,消費は美徳の考えを生み,社会的な意識を変え,価値観も多様化してきた。多様な面値観のもとでは,個人の行動は極めて自由であるが,一方では,自由なるが故に,たえず選択を迫られ,強い自我が要求されるのである。
このような社会構造の変化のもとでは,従順で自我のい縮した,いわゆる「いい子」は社会