研究紀要第49号 「登校拒否タイプ別治療方法の研究」 -004/038page
的適応に失敗し,安住の場の家庭に逃げこむのは,当然であると考えられよう。
(2)登校拒否の心理機制
登校拒否の心理機制は,学者によっていろいろな説をとっているが,そのうちで,主なるものをあげて解説することにする。
1 分離不安による場合 本来,母子関係は,子供が成長するにつれて,心理的な距離をおくようになるが,子供が,未成熟な場合,母親から離れるのが不安で,登校できないような気持ちになったり,反対に,母親の方が子供を離すのに不安となり,無意識のうちに登校を妨げていることがある。このような分離不安は,幼児や小学校の低学年に多くみられる。
親(特に母親)とべったりの子供は,自我が年齢相応に発達せず,未成熟で,自己主張も押しつぶされ,母親なしには,やっていけないような状態になりやすい。つまり,依存的で過多要求的な分離不安の子供は,学校というところが,恐ろしく不安であったり,心細く感じたりする。そのために,積極性も発揮されず,友達もなく,たえず,母親の影を追い,自分の側にいてくれないと,安心して行動できないのである。2 自己像脅威による場合
この考えは,分離不安説に対する批判から生まれたもので,分離不安説ではいいきれないところを補っているところに,この説の特徴がある。
子供が,家の中で,ちやほやされたり,甘やかされたりして,大事にされすぎて育てられると,子供自身は,自分の姿を能力以上に過大評価し,それを必要以上に持ち続けようとする傾向にとらわれる。このような心理状態の子供は,学校で,本当の力が試された場合,結果として,失敗したり,他の者に自分よりすぐれたところを認めたとき,不安は増大し,脅威を回避し,自己愛的で虚構な自己像を維持するために,家庭に逃避するのである。
この自己像脅威は,自己概念と現実経験とのずれが作用し,不安を大きくし,その不安を乗りこえられない心の弱さに,問題があるといえる。
この現実性のない虚構が成り立つのは,家庭で育てられるべき,自我意識や社会性の欠如によるところが多い。そして,それは,父親を通して育てられることが多いが,それが欠如している。だから,父親が心理的に不在であったり,同一視(同一化)が妨げられたりした場合には,このような虚構が育つもとになると考えてよいであろう。また,母親像の巨大化(グレート・マザー)は,子供の活動をますます家庭内に閉じこめてしまうようになる。
その結果,子供は,自己本位の幼児的性格に固着するか,退行してしまったりして,社会性や耐性が身につかず,自分を家庭と同じように受容してくれない学校では,ますます適応できなくなってしまうのである。3 抑うつ的不安による場合
母親に,抑うつ的な不安が徴候として強くでている場合,長い養育の間に,知らず知らず,母親の性格が子供に伝達され,母親と同様に,抑うつ的な不安が,傾向としてでやすい。
このような家庭内の問題を背景にした子供は,学校内のトラブルや失敗に対応できず,不安を増大させる。そのとき,問題の母親と子供は,不安や抑うつ感を高め,共鳴しあうことになる。 その結果,母親と子供は,しばしば固着し,そこから登校拒否がはじまるのである。なお,この退行的,抑うつ的,固着的な母子関係に対して,父親は何らのかかわりももたず,心理的に不在であることが多い。以上,代表的な3つの説について述べたが,前述のとおり,登校拒否は,症候群であるので,ある事例には,A説が妥当と考えられても,他の事例には当てはまらない場合もある。従って,心理機制に関しては,常に,全体的かつダイナミックな観点からの考察が必要になることを忘れてはな