研究紀要第50号 「学校経営改善に関する研究 第2年次」 -012/071page
程の決定過程や全体的な実施過程における様々の要素までを対象とした評価ということができる。
教育課程評価に関する文献は少なく,ましてその概念を規定する参考書は,ほとんど見あたらない現状において,教育課程評価の概念を規定することは難しい。したがって,本研究においても,その概念規定に意を注ぐのではなく,研究の基本的な考えを明確にする意味において,両氏の考えを紹介したわけである。
両氏の考えをもとに推論すると,教育課程評価においては,授業をその評価の中心にすえながらも,単なる授業評価としてのみの受けとめ方で終始するのではなく,教育課程の実施・検証の過程として受けとめて評価・診断するはたらきということができるであろう。即ち,個々の授業を教育課程の効果的な実施にかかわる全ての条件との関連からおさえ,それが,授業の成立にどのようにかかわっているかを診断することと受けとめられるであろう。
この条件とは,目標から授業にいたる目標系列の一連のはたらきである教育課程の編成と実施であるが,さらに,その教育活動を支え促進させる条件系列も忘れてはならないであろう。
このように,教育課程評価の概念をとらえることは,前項で述べたように,教育課程評価とは,学校の教育目標を効果的に達成するために,教育課程の編成と実施が適切に行われたかどうかを確かめ,改善の方策を立てることであるとする考え方と通じるものであり,教育課程評価の基本的な考え方は,より一層明らかになってきたということができるであろう。
(2) 教育課程評価をめぐる二つの問題
これまで述べてきた教育課程評価の考え方に基づきながら,その評価の実際について考えたとき,まず,はじめに検討しなければならないことは,評価の対象・範囲であろう。教育課程評価の概念の項でも述べた通り,教育課程の実施・検証の過程としての授業が中心となることは,おおよそ見当はつくとしても,その具体的な対象・範囲等をいかに決定づけるかの前に,明らかにしておかなければならない問題が二つある。
その一つは,教育評価と教育課程評価とのかかわりの問題であり,もう一つは,近年,教育課程評価に関する新しい思想としてのアカウタビリティーの問題である。これら二つの問題は,「教育課程とは,本来,児童生徒の学習能率を一定の方向に沿って効果的にするために構想されたものであるから,その当否は,根本的には,それにしたがっておこなわれた児童生徒の学習効果によって判定されるものと解されるべきである」(注5)とあるように,教育課程の当否を学習効果で判定しようとする評価の考え方と方向性が同じである。しかし,この考え方は授業評価の考え方と通じる面があるので,二つの問題についても解明しておく必要があろう。
[1] 教育評価の考え方
はじめに,教育評価についての考え方を,二つの文献をもとに紹介することにしたい。
梶田叡一著「教育における評価の理論」(金子書房) 井上尚美編「現代教育評価講座」(第一法規) 教育評価という言葉が広義において用いられる際には,教育活動の立案と遂行に,直接的あるいは間接的に関連した各種の実態把握と価値判断の全てを含むものと解されるのが普通である。 教育評価とは,広義には,教育効果を左右するすべての事象を評価することであり,子どもを中心に教育活動にかかわるものを図示すれば,評価の対象は,次の図のようになるであろう。