研究紀要第51号 「学習指導の個別化 個に応ずる研究」 -007/080page

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1 研究のねらい

中学校学習指導要領には,数学科の目標として「数量,図形などに関する基礎的な概念や原理・法則の理解を深め,数学的な表現や処理の仕方についての能力を高めるとともに,それらを活用する態度を育てる」と示されている。教師は,この目標の達成をめざし,指導目標を分析し,教材を精選し,指導内容の重点化を図るなど,指導に努めている。このような教師の努力にもかかわらず,学年が進むにつれて生徒の間で学力の差がひろがっていくのが実状である。この傾向は,数学科において特に顕著である。数学の学力のばらつきが大きくなる誘因は,種々考えられるが,数学のもつ抽象性と体系性をあげることができよう。

まず,抽象性についてみると,例えば,小学校においては,分数の学習でつまずく児童が多く,中学1年では,文字式の計算が入ってくると,急に数学をむずかしく感じる生徒が多くなる。これは,分数が自然数よりも高次の抽象数であり,文字式が数一般を表すものとして,数より高次の抽象性をもつためと思われる。特に,中学校数学では,小学校算数よりも一層抽象的に思考ができるようにするねらいがあることは,数学科の目標からも読みとれる。したがって,中学校の数学では,抽象的な概念や思考の方法が要求されるので,いきおい生徒個々の個人差が大きくなるものと思われる。このような個人差に対応するためには,教師は,生徒一人一人の発達段階をとらえ,個に応じた指導を工夫していくことが重要である。

また,数学は体系性,累積性をもつ教科である。したがって,その学習においては,新しい内容は常に既習事項を基礎とし,その上に積み重ねていくことになる。そのため,既習事項が身についてないと,次の学習が十分には成立しない傾向が著しい。例えば,正負の計算でつまずいていれば,それがもとになって文字式の計算や方程式の解法でも,つまずいてしまうことが多い。つまずき解消の時期を失すると,つまずきが次のつまずきを生み,場合によっては,数学に対する興味も自信も失われ,学習意欲さえも失ってしまうことになる。それだけに,数学の学習においては,早期の診断と治療が特に重要になってくる。

このように,数学の学習では,個人差が大きく,ややもするとつまずきが累積しかねない。したがって,教師は,生徒一人一人に目を向ける機会を多くし,生徒の特作や学習のレディネスをよくとらえ,指導の成果を絶えず評価し,次の指導にその結果を生かしていくよう努めることが重要になってくる。すなわち,毎時間の授業で,めあてに対する生徒一人一人の到達の度合いをよく把握し,つまずきのある場合には,いち早くその原因をとらえ,それを解消させる適切な指導の手だてや場を設定し,個に応じた働きかけをする必要がある。このことが,一人一人に確かな学習を成立させるうえで重要なことであると考える。

本研究は,これらのことを踏まえながら,1年の「方程式」について,生徒一人一人のつまずきや到達度をとらえ,個の特性に応じた働きかけを行うことによって,個の確かな学習の成立を図るための学習指導のあり方を追究しようとするものである。

2 研究の構想

(1) 解決策設定のために

「個に応ずる働きかけ」によって生徒一人一人に確かな学習の成立を図るために次の方策をたてた。

生徒一人一人に,単元における学習の流れと,毎時間の学習のめあてをとらえさせ,課題についての自己のつまずきや到達の度合いを確認させ,個に応じた学習を進めることができるような手だてや場を設定し,個の特性や学習の状況に応じた働きかけをしていけば,個の確かな学習が成立するであろう。

この方策は,三つの要素から成り立っている。つまり,一つは,「生徒一人一人に,単元における学習の流れと,毎時間のめあてをとらえさせること」,二つは,「課題についての自己のつまずきや到達の度合いを確認させ,個に応じた学習


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