研究紀要第52号 「教育課程の実施に関する研究」 -028/090page
通して能力に応じ,より美しく表現するための工夫を行うべきである。つまり,発声法について深い理解や方法の習得がなされていなくとも,“歌唱は楽しくてとても好きだ”という心をはぐくむことが大切である。そして音楽の美しさを素直に,しかも進んで受け入れ,積極的にこれを表現しようとする気持になるように導くことである。
女子は,学年が進むにつれ,少しずつ意欲が高まっている。これにより,美しい声の出し方は,知らなくとも,女子にとっては,本質的に歌唱はきらいではないことを,図の9で知ることができる。この場合は,更に美しい音楽を求め,よい高い表現力を身につけるための手だてとして,美しい声の出し方を工夫させ,児童一人一人の発達段階に応じて適時性を考慮しながら,それぞれに充足感を持たせることが重要である。そして前にも述べたように,学習したことの成果を確実に身につけていくことによって,一段と深く音楽にふれる喜びを感じとり,ひいては,自主的な態度の育成に役立つものと考える。
男子は,自分の声を美しい音色に,豊かな共鳴や声量に高めていく方法,つまり発声法をよく知らないために歌うことに好意を示さない児童が多い。ことに,6年では,変声期の過程にあって,声質・声域・声量などに変調をきたし,“友達に笑われるから”“自分の思うように声がだせないから”といった児童が増えている。そして残念なことには,“友だちがあんまり声をださないので自分もださない”と答える児童もあり,それらも加えると,学級全体の男子の65.7%が,声をだすのに意欲をなくしていることである。歌唱学習において,声をだすことに,これだけ消極的になってしまう男子が学級内にいるということは,全体の意欲を高めたり,楽しく歌唱しようとする雰囲気づくりにマイナスの影響をもたらすものと考えられる。したがって,指導の際には,どのような声であっても,それは生まれつきもった立派な声であることを認め,児童一人一人の声の質について留意し,自信を失わせないような配慮をしなくてはならない。まずは思いきり声をださせて表現させることである。しかる後,児童の声の成長を見守りながら,音楽の内容に合う声のだしかたを身につけさせたい。
(3) 歌唱指導と児童の声変わり
声変わりは,大部分が中学時代に完了するが,まれにはそれ以後になるということもある。場合によっては,心身の発達がすぐれ,発声器官も成長した児童は,小学校時代に大人の声に変化しはじめるのも珍しいことではない。今回の調査でも,声変わりになっているのを気がついている児童が,各学年にいることがわかった。
この調査では,“声がかすれたり,高い声がだしにくいので,いま声変わりになっていると思う”と答えた児童は8%程で低率である。しかし,“声変わりのことは,自分ではよくわかりません”と答えている児童が50%程いる。この中には,変声期にかかっていても,それと感じていない児童が相当数含まれていると思う。
教師は,変声期の児童への配慮として,正常な発声をしていたものが,喉の痛み,声のかすれ,高い声がだしにくく無理をすると声がひっくり返るなどになったら,必要以上に声帯を刺激することがないようにして,この時期を大事に過すよう心掛けさせなければならない。
5.歌唱指導の実際
これまで,歌唱指導の意義や,県内の児童における歌唱学習に関する調査と考察についてふれてきたが,ここでは,それらの考え方や,実態を踏まえながら,歌唱指導を実践する際に留意すべき事項について述べる。
ここに,小学校4年の歌唱共通教材の中から,