研究紀要第53号 「学習意欲を高める心理的治療への理論的アプローチ 第1年次」 -000-01/042page

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まえがき

今日の学校教育が求めている「心豊かな人間性の育成」には,すべての児童生徒が心身共に健やかで能力や個性に応じた成長を願い,人間として価値ある自己確立と自己実現が図られるよう指導の徹底が望まれている。そのための教育活動は,カウンセリングの技法を積極的に取り入れ,実践されなければならない。カウンセリングで最も重要なことは,児童生徒の立場になっての共感的な個人理解である。教師は指導のプロセスにおいて,絶えずからだの状態,知能・学力の状況,性格・環境面などの理解につとめ,一方,子供に対しても,「今ある自分の問題」に気づかせることが極めて大切なことである。更にこれらを通して,一人一人の子供の興味・関心,悩み等について適切に援助し,学習に積極的に立ち向かう価値志向性へとかりたて,旺盛な学習意欲を湧かせなければならない。

最近,学習意欲とそれに関するテーマが多く取りあげられ,学校の研究会などでも「子供の学習意欲を高めるには,どのように働きかければよいか」というようなテーマが多くみられる。このように,学習意欲が問題にされ,研究されているにもかかわらず,教育では,この問題に対処できる適切な処方箋を書くことは困難で,昔から大きな課題とされてきた。そのことで,学校現場は勿論のこと,学習心理学でも大きな関心をもって研究を積み重ねているところである。

たしかに,学習意欲がない場合は本人もよい成績をあげることはできないし,親や教師もこれを指導することはむずかしい。それは,学習意欲は学習者を学習へとかり立てる原動力,動因であるからである。ところが子供によっては,学習意欲が強すぎてもうまくいかない。学習意欲が強すぎると,とかくあせったり,不安を抱いたりすることになり,学習効果があがらない。したがって,学習効果をあげるためには,学習意欲の程度を知り,弱い場合にはなぜ弱いのか,その原因を調べてそれを強めるようにし,強すぎる場合はそれにブレーキをかけることが必要である。そこで,教育心理学や学習心理学では学習効果をあげるための第一歩として,学習意欲を引き起こすことを強調し,どうすればその意欲を引き起こし,それを高められるか,「動機づけ」の問題として研究が進められている。

学習指導は,子供が自発的・自主的に,つまり学習意欲を十分に持って学習活動を積極的に行うように指導し,助言を与えることを目指している。具体的には,学習の環境や条件を整えてやり,学習目標の設定,計画の立案,計画の遂行,結果の整理といった学習活動を子供が自発的・自主的に,しかも能率的にできるようにしようとするものである。しかしながら,もっと根深いところで意欲を失っている子供に対しては,「動機づけ」だけでは解決を図れない場合がある。これらの解決にあたっては,どうしても心理的治療へのアプローチが必要になってくるのである。

以上のような意味あいから,本研究は「学習意欲を高める心理的治療への理論的アプローチ」に向けて,2年継続研究として試みたのである。本年度はその第1年次にあたり,学習意欲をどうとらえるか学習意欲の形成される背景とその問題点,学習意欲をどう評価すればよいか,学習意欲を高める動機づけ等の理論と学習意欲検査による実態調査の分析・考察の集録である。当然,今までの心理学的研究の成果を十分検討し,有効に生かしているので,現場実践の中で一人一人の子供に最も適した方法を見い出す手がかりとして,ご活用いただければ大変幸せである。

昭和58年3月
福島県教育センター所長 舟山 昇


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