研究紀要第54号 「教育課程の実施に関する研究」 -003/071page
身近な材料を使ってものをつくる指導
−児童につくる喜びを得させるために−
教科教育部 田 中 四 郎
1. はじめに
昔の子供たちは,竹・木片・針金など,身近にあるごくありふれた材料を用いて,こま・水てっぽう・竹馬などを,自らの手でつくって遊んだものだった。そのような遊びを通して子供たちは,発見し,発想をふくらませ,材料の性質を知り,その処理の技術をも身につけるなど,さまざまのことを学習していったのであった。
しかし,時代や社会の変化とともに,その事情は一変したようだ。昨今,子供たちは,プラモデルやテレビゲームに代表されるように他から与えられた,既製の玩具(がんぐ)・遊具で遊ぶようになり,自らがつくったもので遊ぶという経験は,彼らにとって,もはや遠いものとなってしまった。しかし,また,彼らの身のまわりには,従前に劣らずたくさんの材料があるのだが,発泡スチロールやプラスチックなど,戦前にはなかったものが現れ,かえって,バラエティに富んだ材料があると思われるのだが,子供たちは,そのような身のまわりの材料に身向きもしようとしない。というよりは,むしろ,子供たちはその豊富な価値ある材料の価値に気付いていないと言った方が正しいのかもしれない。
このように,子供たちが身辺にある材料を利用してものをつくらなくなったことは,近頃,問題になっている。例えば,小刀で満足に鉛筆も削れない子供,リンゴの皮もむけない子供,ひいては「使い捨て」に慣れきってしまって,ものを大切にしない子供を育てる直接間接的な一因ともなっているのではないか。
ところで,「小学校図画工作科」では,このような現状をふまえ「身近にある材料を用いてものをつくる学習」を積極的に取り上げていくことは非常に意味あることと思われる。学習指導要領においても,「紙など身近な扱いやすいもの, 〜 に関心をもつこと。」 (小学校図画工作編, 第1学年 2内容, A表現 (3) ウ )の文言がみえ,また,その指導書においても, 第3章, 第3部の 2の (1) 「材料に関するもの」の総括名として「身近な扱いやすいもの」と示されているのも,そのあたりの事情を配慮してのことかと思われる。
そこで,このたびの研究では,「身近な材料を使ってものをつくる指導」をテーマに取り上げ,
・児童の製作活動が意欲的になされ,創造性を高め,つくる喜びを得させることのできる。
・児童の心身の発達に即して,特性を生かし適切な使用ができる。
・学習の生活化が図れる。
などの観点から,いくつかの材料をもとにして教材開発をした事例をあげながら考察をすすめることとする。
2. 身近な材料でものをつくる意義
児童がものをつくることは,ひとり図画工作科