研究紀要第54号 「教育課程の実施に関する研究」 -018/071page
化学の基本法則の指導にわける問題解決能力の育成
−質量保存の法則と定比例の法則を例として−
科学技術教育部 吉 田 隆
1. はじめに
学習指導要領の第1分野の内容,「(3)物質と原子」には,「純物質と混合物,元素と化合物,化学変化における物質の質量関係などを通して,物質の構成や化学変化のしくみを原子や分子の粒子的なモデルで考察させる。」とある。
ここでは,いわゆる物質をマクロな事実からミクロな理論へと発展させ,それを抽象化,一般化していく中で,微視的な物質概念の形成過程がより重要となる。
化学変化における物質の質量関係についての「質量保存の法則」や「定比例の法則」からの化学変化のしくみを理解させる指導はむずかしく,生徒にとっては理解困難な内容といえる。この学習の段階で,特に,理科ぎらいや消極的なとりくみが顕著となる傾向がある。
そこで,微視的な物質概念を形成させていく過程で重視される「化学の基本法則」の中の質量保存と定比例の各法則に視点をあて,その指導と実験のあり方について,次の5点から考察する。(1) 「物質と原子・の中での巨視的な物質概念から微視的な物質概念へ発展させていくための手順とその構想
(2) 「化学の基本法則」の指導を通して育成できる能力・態度の検討
(3) 問題解決能力と教材内容関係マトリックスの作成とその利用
(4) 化学変化での質量保存と開放系と閉鎖系を連続して観察できる実験の工夫と指導
(5) 定比例の法則を粒子概念で考察し,原子概念を着想させていくための実験の工夫と指導
2. 「物質と原子」の中での巨視的な物質概念から微視的な物質概念へ発展させていくための手順とその構想について (構想図1参照)
小学校より,物質の変化の事実をマクロ的な見方,考え方でとらえ,ある程度のマクロな概念形成が定着してきている。ところが,中学校では,2年生で学習する「化学反応」と「原子と分子」の内容において,化学変化の理論づけを粒子モデルで考察させ,微視的な概念でとらえさせようとするとわからなくなり,理解困難となる。
「物質と原子。の内容では,まず,マグロな事実を数多く経験させ,マクロとミクロの対応と統一をはかる学習をくりかえし指導することがより重要となる。このくりかえしの過程で粒子概念は低次なものから本質的なものへと発展していき,実在のものとしてとらえることが可能となる。(1) 「質量保存の法則。の指導では,開放系と閉鎖系を連続して観察できるような実験を工夫する。
開放系では,酢酸鉛とヨウ化カリウムの反応のように,色の変化があざやかに出る例から,生徒の課題意識を高め,次に,閉鎖系での反応を通して質量保存の法則を定義し,原子の保存性を指導していく。各教科書では,石灰石と塩酸の反応をとり入れているが,ポリエチレンの袋や広口びんでは,二酸化炭素がもれたり容器が不透明なため気体発生の様子か観察できない欠点があるので,容器を工夫することによって,「観察できる能力。や「問題が発見できる能力」などを高めていく。 (質量保存の法則の実験例参照)(2) 「定比例の法則」での酸化と還元反応の指導では,粒子概念をとり入れてモデル化させていく指導を重視する。