研究紀要第54号 「教育課程の実施に関する研究」 -048/071page

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 これは,設定された時間内に学習すべき項目・内容は同じ(サイクロトロン内の角速度は一定)であっても,学習の深まりの程度に応じて,それぞれの目標系列(A,B,C系列)で到達させるという構造である。学習の深まりは回転半径で示され,A系列は学習の習熟度の高いグループの系列であり,C系列はその逆で半径が小さい。
 C系列でも時間をかけ,加速させることができればA系列の到達点まで行けることを示した。
 筆者は,学習のレディネスや学習能力・習熟度などの多様化に対応するための実践から,一斉授業の展開の中においても,生徒を主体的にそれぞれの目標に到達させ得る意欲をもたせることが可能であると考えた。これが分岐型字習指導形態である。
 さて,このモデルの「学習項目・内容」や「教材・教具」で加速ができなかったらどうなるだろうか。学習について行けなければ失速し「ディ」の間に落ちこむことになる。これは「落ちこぼれ」ではなく「落ちこぼし」である。なぜならば,教師が,生徒を加速させるための適切且つ効果的な教材・教具を用意しなかったことだと言える。また,教師が,必要なマネージメントをおこたった場合には回転半径が大きくなり「ディ」外に飛び出してしまう。これもまた学習の場から「落ちこぼし」たのである。マネージメントが適切に機能していて「ディ」外に飛び出したものは,到達目標以上のエネルギーにまで育ったことになる。



(3) 教材・教具の位置

 ここでは前項の「ディ」の役割りについて述べることになろう。「ディ」は「学習項目・内容」や,「教材・教具」を「経験レベル」と「思考レベル」に分けて,整理系統化することである。これには,その教科のもつ学問的領域を体系化(註1)することと共に,その領域を学習指導要領に沿って位置づけ,学習意欲をもって更にエネルギーを「とりこむ」活動へと発展させるために,教材・教具を精選したり,開発したりすることになる。(註11)
 特に,筆者の活動領域である物理に限定して述べるならば,生徒の生活経験や,既習事英の知識の大部分は,生徒の頭の中で体系づけられていない状態で学習するわけである。これを学習によって体系づけ,必要な場合に必要な知識をすぐにとり出すことができるようにしてやらなければならない。そのためには,
 ア 問題把握と問題内容の理解
 イ 仮説の設定
 ウ 検証の方法と検証結果の検討
 エ 結果の処理と仮説との対比
 オ 一般化
のような手順をふまえ,更に ア ヘフィードバックさせて,閉じたサイクルにすることが重要になる。

思考レベル、経験レベル図

 筆者がこれを図に示した理由は,生徒たちが法則や公式を記憶し,答えることができるように訓練されていても,それは学習内容が「わかった」ことにはならないと考え'るからである。本当に「わかる」こととは,「自然科学というものがどのように自然を理解しているか」がわかるということであり,それによって,「自分はどのような行動をし,何かできるのか」がわかることであると考えるからである。
 したがって教材・教具も科学の方法をふまえた教育的価値を十分考えた上で,精選したり開発をおこなったりして,さらに検討を加えなければならないと考えるのである。
 また,教具についても,原理がよく説明できるものであるか,科学の方法を身につけ得るものであるか,学習意欲をそそるものであるか,など種々の効果を検討した上で決定されるものであると考える。


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