研究紀要第54号 「教育課程の実施に関する研究」 -049/071page
3. 連続した発想能力を高めるための教材・教具
教材・教具の開発視点として,これをとり上げたのは,生徒たちが学習したことに関して,知識・理解・技能ともに,パターン化したシステム思考になれて,創造的思考が弱まったといわれているからである。また,デジタル回路の論理が学習指導の中にかかわってきているのであろうか,評価の際の「できる」「できない」は2進の論理である。学習指導のフローチャートも然りであろう。また,ある問題解決にあたっても是か否かで,極論が横行し,柔軟な思考ができなくなったとの声もある。しかし,デジタル論理は,単純なものの組み合わせにもかかわらず,頭脳に近く複雑なものまでも処理することができる。これは単純なものも集積化することによって精密化ができることを意味している。
つまり,大きな問題を解決するには,まず,小さな問題要素を分析的に引きだして,個々について是否を論じ,綜合的に解決して行く方向を見つけるというのが集積回路の考え方であって,そこにシステム的な価値を見いだすのである。これをしないで,大問題を是,否とすることに誤りがあったのではないだろうか。本来のシステム思考は新たなものを生みだす思考になり得ると考えるのである。要は帰納か演えきかの問題ではなかろうか。
さて,理科教育には,科学技術の進歩に対応し,その知的エネルギーをとり入れ,考え方や方法などもそれに生かしこむ工夫が求められている。その考え方や方法もシステム的であり,そのシステムの中から新たなものを生みだすことが求められている。
しかし,理科学習の中に新らしい情報をどのように追加すればよいのかを,具体的に述べることは難しい。基本的な科学概念や自然科学を成立させ,進歩させている考え方やその方法を身につけさせることを重視すれば,先端的な知的情報を追求することは,この理念に対し一致し難いように思える。しかし,現実に身近になった先端技術に触れさせることを怠れば,生徒たちの将来に直結する問題を切り離すことにもなりかねない。
そこで,何をねらいとし,ねらいを達成させるためにはどのような実験がよいかを吟味し,新しく開発した実験装置によって,探究の過程を通した学習が成立するならば連続した発想能力も高められるのではないかと考えるのである。
4. 教材・教具開発の条件
実験装置・方法の名作としてテープタイマーを挙げる。テープタイマーは,科学の探究のありかたを示す例として数々の長所を備えている。
運動の記述で,変位,速度,加速度を処理する中で,微分とは?積分とは?とニュートンの思考をすべて再現してくれるからである。精度は悪いがその欠点を考えに入れても効果的である。したがって,開発の条件として,(1)物理学の中の原理や法則を端的に表し,簡便な方法で誰にでもできて,しかも経済的であるもの。
(2)科学の方法としての位置づけを探究的な学習が成立する段階(観察,実験,測定,記録)までとし,データの分析,処理,分類,比較,推論,予測,モデル形成,などの段階は思考力,理論構成力の育成を図るために機械化は望ましくないので注意したいと考えている。便利とか短時間で終れるからという理由で機械化することは思考を妨げ,発想能力をつんでしまうことになる。
(3)実験は,ある見通しのもとに条件を制御して,いくつかの事象間の因果関係などの情報を収集する。情報収集の手順や,方法を考え出させることのできる実験装置を用意したい。(註12)
実験装置は生徒一人一人が作成し実験することが理想である。中学校や高等学校でも小学校の実験教具などを大いに参考にしたいものである。(1)のところに述べたものが多数考案されている。
学習内容 開発装置及び教具 観察 実験 測定 記録 A O Yes No No Yes B P No Yes Yes No C Q No Yes Yes Yes D R Yes Yes Yes No E S No Yes No No F T No No Yes Yes 実験装置分類表