研究紀要第54号 「教育課程の実施に関する研究」 -050/071page
5. 教材・教具の開発事例
先端技術の開発によるコンピューターの発達は,固体物理が生み出した成果である。
これを取り入れようとすれば教育用装置は量産する程の需要がないために高価である。だから学習に成果を生かしこむためにICデバイスを自分で料理することを考えなければならない。面倒だといって,従来の装置で実験したのでは精度も悪いし大がかりである。しかし,装置は高価でも自分で設計作成すれば市価の 1/20 の価格で,しかも市販されていないユニークで高精度の測定装置や実験装置が誕生する。
筆者が研究や実験をしていた頃,教授の言われたことを思い出すのである。「研究は他人が手がけていないことを対象にする。だから,実験装置はできていないのだ。自分の研究に必要な装置は自分で設計し作り上げるのが当然なのだ。」これは開発しながら研究を進めることを,科学研究者に求められたのだと思う。教師も同じような努力が必要なのである。
さて,マイコンの利用を考えてみよう。機能から考えるとCMIには適しているが,前述の科学の方法を段階的に身につけさせるには不向きのようである。それは測定機能を全く持っていないためである。したがって,測定部のセンサ・インターフェィスの開発が必要になる。ここでは,教師のハードウェアに対する技術が要求されてくる。一方,ソフトウェアでは,グラフィックやアニメーションの機能を生かす方法がある。この場合,提示のし方として,OHPより効果的かどうか。コンセプトフィルムによる提示よりも直接科学に迫るものになっているか。などの検討が必要になる。CAIとして用いる場合には教師の科学的態度が問われるものとなるので,単なるゲーム的なものに終わらせない研究が必要である。
次に述べる事例はコンピューター用ICを用いて開発したものである。開発目標
(1) 原理に忠実で精度が高く,操作が簡単で,生徒の知的興味が引きだせること。
(2) 多用途で学習の場面に連続的に活用できること。
(3) 生徒の実験上の工夫が引き出せるよう留意されていること。目標を実現する上で大切なのは,実験材料費が少額でも可能にすることである。できるだけ安価なもので,高精能なものを引き出す工夫が,発想を豊かにしていくものである。
事例
4096 × 24BIT (6DIGIT) DATA
MEMORY (実用新案出願中)1.測定する物理量の情報収集時間を最短10 -4 sec とし長い方は無制限とした。データは 4096 回収集でき,精度は 6DIGIT 500 nsec で自動停止も付けておいた。センサーとの組み合せですべての実験に使用できる。
2.連続的な情報収集が理想であるが ADDRESS No.X から (X+1) に進む間の情報収集不能時間(記憶のために必要な時間) を100 nsec まで短縮した。更に,高速ICを用いれば若干短縮できるが十分である。この方式は MEMORYSELLARRAY の ADRSS 1当たりの時間10 -4 secより短かければよいので,安価なものでよいことが特徴である。
3.ADDRES COUNTER は UP / DOWN にし,早送り付読み出し (AUTO) と手動読み出し (MANUAL) の2種切換えとした。これは 0 〜 4095 のデータを読み出す場合,1データ1 scc としても 4096 sec かかるからである。以下に示したのは FUNCTIONAL BLOCK DIAGRAM である。
マイコンを用いると BASIC 8BIT の場合でスピードが 0.1 sec 程度の分解能なのでこれとの比較ではマイコンの性能の悪さが目につく。この装置はマイコンではでき得ぬ程高性能である。