研究紀要第57号 「学習意欲を高める心理的治療の実践研究 第2年次」 -002/044page
た。
(2) 研究推進のための具体的手だて
第一年次の理論研究で明らかにしたように,学習意欲や学習意欲の構造については,必ずしも一致した見解がない状況にあるが,ここでは東京学芸大下山グループが開発した「学習意欲検査。を実施する関係上,下山グループが学習意欲検査開発の研究過程でとった見解を中心に述べることにする。
1.学習意欲とは
さまざまな定義づけがある中で,ここでは下山グループが学習意欲の構造に関する一連の研究の中で,学習意欲の特性として,自律性,自発性,価値志向性を重視しながら,学習意欲の構造を因子化する作業を進める際にとった「学習意欲とは,種々の動機の中から,学習への動機を選択して,これを目標とする能動的意志活動を起こさせるもの」という立場をとることにした。2.学習意欲の構造
学習意欲検査作成の過程で,下山グループは,学習意欲を構成すると考えられる要因を30想定し,類似性の高い要因どうしをまとめて17要因にしぼり,予備検査などを実施し,因子分析をして8因子を抽出した。すなわち,学習意欲を構成する因子として,学習意欲の積極的側面にかかわるもの5因子,学習意欲を阻害する側面として3因子,計8因子をあげている。ア 学習意欲の積極的側面にかかわる因子
(ア)自主的学習態度
○自主的に学習目標や学習計画をたて,自発的に学習しようとする態度。
(イ)達成志向の態度
○むずかしい問題に挑戦したり,できるまで頑張ったり,目標達成に努力する態度。
(ウ)責任感
○やるべき学習を責任をもってやりとげようとする態度。
(工)従順性
○学習を進める上で,あるいは,学力向上のための有効な他者からの援助や指示を受け入れる傾向。
(オ)自己評価
○自分の学力や成績などを自分なりに評価している。あるいは評価しようとしている。イ 学習意欲を阻害する側面としての因子
(ア)失敗回避傾向
○失敗を恐れるあまり,学習に集中できなかったり,学習場面から逃避しようとする消極的傾向。
(イ)反持続性
○勉強にあきやすかったり,遊びをやめて勉強にとりかかる決断がおそいこと。
(ウ)反(学習)価値観
○学習の価値を認識し,学習へと自己を方向づける態度に欠けている傾向。児童生徒が学習にとりくむ場合,考えられるのは個々の児童生徒の学習へのとりくみの態度である。しかもそのとりくみは,目標にコントロールされ目的意識にささえられて学習を追求しようとする態度となって表われているかどうか,個々の児童生徒が学習の過程でどのような心的傾向を示すかといった側面からとらえる必要がある。