研究紀要第58号 「教育課程の実施に関する研究」 -050/076page
促し,児童生徒自らが向上しようとする意欲を換起されることも必要である。
3) 個別化の徹底
「書く気のない者をどう指導するか」「書こうとしても書けない者をどう指導するか」ということは,国語科指導教師が絶えず口にする嘆きの声である。前者は作文意欲の問題であり,後者は作文技能の問題であるが,作文学習は,児童生徒の営為によるものであるから,児童生徒自身が「書く材料はどこにでもある」,「書くことが楽しい」,「おっくうがらずに書ける」ということを自覚させ,自分のこととして作文行為に取り組むように教師が仕向ける必要があろう。つまり,児童生徒個々の主体性の確立が大切であり,教師は,それを基盤として,児童生徒一人一人の個性や能力に応じた指導を適宜することによって,作文指導の個別化をはかることが可能になると思われる。
4) 評価基準の明確化
国語科の目標から,単元目標を分析し,具体的な評価の項目を決めることが先決であろう。次に,その具体的な目標に対して,児童生徒が目標に沿って学習した際に,どの程度の学習内容を習得すれば十分に学習が達成されたと言えるか,また,十分に達成されないというのはどういう基準に対してそのようなことがいえるのかを明確にしておく必要があろう。
たとえば,小学校低学年の言語事項の仮名遣いについて,「こおり― こうり」「とおる― とうる」など,「オ列長音を文の中で正しく使うようにする」ととの目標はあっても,「お,う」を「正しく使う」ことは,まず使い方がわかることが前提であり,ただ読めるということでわかることにはならない。また,「正しく使う」ことは,文中で正しく使えることでなければならない。
このように,質的な面から評価基準について考えなければならないし,文章を書くときに常に正しく使えるという文字習慣にまで発展していかなければ「正しく使える」ことにはならない。したがって,「十分に達成」という評価は,「使い方がわかるということと,正しく使うことができる」ということでなければならない。常に指導の機会をとらえ,繰り返して使い方を指導することによって,「十分達成」させることができる。よって,具体的な評価基準を決めておくことも,診断と治療には欠かせない―つの要因である。
5) 作文指導における形成的評価の貝体的実践
形成的評価が重視されるようになったのは,評価が常に終了時でなく,学習活動を展開している中で評価され,その評価が事後の指導に役立てられるためである。そのためには,単元目標から一単位時間の指導目標まで明確にし,その目標に対してどのくらいの児童生徒が,どの程度達成したかを評価することである。作文指導においても,この形成的評価の実践は,児童生徒の学習の認識を促し,その評価が次時の学習への基底となって発展するところに大きな利点がある。
(2) 作文指導における診断と治療の理論
1) 焦点化した指導目標の設定
作文指導の評価は,焦点化された指導目標から行うのが基本であり,焦点化した目標にそって指導をし,その目標からのみ評価を行うべきであろう。したがって,指導目標なり評価の観点をどのようにして設定するかが問題になってくる。また,それは,児童生徒の文章表現カの実態とも関係するが,一応の基準としては,指導要領の当該学年の指導事項がある。ただ,指導要領の指導事項は,かなり抽象的な表現になっているので,これを具体的に分析して把握しておく必要があると思われる。
次ぺ―ジの<表1>は,「作文指導事典」 (第―法規)の作文基本的能カ一覧表である。