研究紀要第58号 「教育課程の実施に関する研究」 -070/076page
○ <高等学校>
器械運動は個人的スポーツとしてとらえ,個人の技能を最高度に発揮するスポーツである。そこには主として個人としての克服課題があり特性との関連から強調すべき指導の重点を設定して指導する必要がある。また,運動の特性や課題に応じて学習内容や学習のさせ方を工夫するなどして,継続的に運動が実践されることを目指して学習指導を展開する必要がある。
このように,器械連動は個人的スポーツとして克服的スポーツとして,何を課題として学習させるかをはっきりさせ,一人一人の児童生徒の力に応じた「めあて」を持たせ,その「めあて」をそれぞれの児童生徒が達成できるような指導過程をエ夫することが大切だとしている。
また,すべての児童生徒が,それぞれ自分の力に応じた器械運動の学習の仕方や練習の方法を理解し,それが実際の学習の中でグループで協カしながら実践できるようになり,その学習が生活の中にも自然な形で溶け込まれるような,すなわち生涯スポーツの実践につながれるような学習過程をエ夫することが,教師に課せられた課題ではないかと思われるのである。しかし,従来の器械運動の学習過程は,大部分が教師主導の一斉指導の形態をとり,指導内容もクラス全員に同じような課題を与えて練習をさせてきたように思える。そのため,技能の高すぎる子と低い子どもどちらにも満足した学習にはならなかったのである。
それでは,器械運動において,運動の特性にふれる楽しさを味わわせるための学習過程は,どのように考えていったらよいのだろうか。スポーツとは,本来自発的なものであることから,技能や運動の方法を教師が一方的に考えることではなく,児童生徒に解決や発見する余地を残しておくこと,一人一人の児童生徒が自らの努力によって運動の楽しさ・喜びを味わわせることが大切である。したがって,その学習過程は,まず第1 に「現在もっている知識,技能,体カなど児童生徒のカの範囲内で運動の特性にふれて楽しむ」ということである。言葉をかえれば,今もっている力に応じて,その運動の楽しみ方を十分知ることができるように教師が導くことである。これならば,すぐに児童生徒たちの力で活動を始めることも可能であるし,ほどよい「めあて」 (具体的なねらい)も考えられるし,器械運動の楽しさを自分たちの力にふさわしく味わうことができるであろう。そして,この段階がうまく進められれば,結果として技能も高まることになるであろう。このようにカが高まってくると,新しいわざを身につけたいという欲求がおこってくるはずである。
そこで,学習過程の第2 は,「自ら新しいわざや高い技能にめあてをもち,工夫をこらして運動を楽しむ」ようになるよう工夫されることが必要になってくる。このように,高まった力にふさわしく工夫が加えられて,一層高いレべルでの楽しみ喜びが得られるようにしていくことが,一人一人の児童生徒に運動の特性にふれる楽しさを味わわせることになるのであり,スポーツを自らする子どもに育てることができると考える。小・中・高等学校一貫性の問題から考えると,小学生も低学年なら低学年の児童に運動のおもしろさ,楽しさ,喜びを味わわせる,高等学校なら高等学校なりにそれぞれの生徒に,楽しさ,喜びを味わわせるように学習過程を工夫していかなくてはならない。
跳び箱運動を例に具体的に学習指導の方法を考えてみたい。跳び箱運動では,小・中・高等学校一貫して,新しいわざや跳び箱の高さなどを克服させるために,児童生徒一人一人の自己の力にあった課題をもたせ,その学習課題を克服させることに楽しさを味わわせることであることから,その指導過程は,次のような流れが考えられる。
表7 跳び箱運動の指導過程
(1)導 入
ア.児童生徒に,何を練習するのかをはっきりさせ,課題を明確にする。
イ.わざや高さへの挑戦のため,どのように練習するのか, 跳び箱の配置や練習時間,グルーピングなど学習活動の仕方をわからせる。