研究紀要第60号 「『関心・態度』の評価に関する研究」 -001/049page
1 研究の趣旨
当教育センターでは,昭和58年度から児童生徒一人一人の学力を伸ばすために「学習指導と評価」の在り方について研究に取り組んでいる。
本研究は,「学習指導と評価」に関する研究の第2年次の研究であり,ここでは,特に,児童生徒の学力の情意的な側面である「関心・態度」を取り上げ,「指導と評価の一体性」の評価観をふまえながら,その評価の在り方を追究しようとするものである。
(1) 研究主題設定の理由
学力の情意的な側面については,これまでも多くの研究がなされ,指導や評価の在り方について,その成果が明らかにされてきている。
しかし,情意的な側面の評価には,評価の妥当性,信頼性,実用性など解決すべき問題点が残されており,また,認知的な側面の評価に比べて,教師自身の評価経験の不足からくる評価への不安も解消されなければならない。更に情意的な側面の評価は,時代の変化に対応し得る児童生徒の育成という課題の解決策としても意味がある。そこで,具体的には,次の3点を背景に,本研究の「主題」を設定した。
第一は,学習指導要領,指導要録改訂の趣旨である。現行の学習指導要領は,自ら考え正しく判断できる児童生徒の育成を重視し,人間性豊かな児童生徒を育てることなど,「教育課程の改善のねらい」に基づいて従前のものが改訂された。この学習指導要領では,児童生徒の学習意欲の向上や自ら考え実践しようとする態度の育成を重視している。
このような「ねらい」や「趣旨」を受けて指導要録には,「各教科の学習の記録」に「観点別学習状況」が新設され,各教科の観点に「関心・態度」が取り入れられた。従来このような情意的な側面の観点は,評価が困難であるという理由で設定されなかったのである。
しかし,近年の教育評価研究と評価観の深まりのなかで,形成的評価の研究が進み,評価と指導の関連強化の重要性が認識され,学習指導要領に示す各教科の主要目標に応じて「関心・態度」が取り上げられたのである。従って,「関心・態度」の評価については,研究や実践の成果をふまえながら適切な「評価の方法」を確立していくことが必要であると考えられる。
第二は,情意面(関心・態度など)の評価の実態からである。本研究に先立って,昨年度は,「学習指導と評価に関する実態調査」を行った。その結果,大多数の教師が情意面の評価を行っているが,授業中の情意面の評価は,計画性にややとぼしいことがわかった。
更に,自由記述による「悩みや意見」から,「情意面の評価」は,「おろそかになっている」,「困難である」,「手段・方法がわからない」,「主観的な評価になることが不安」,「自信がもてない」などの悩みが多くみられ,その評価については,「困惑」,「不安」,「模索」などの実態がとらえられた。また,数値化や数量化の可能な評価方法の開発を望む意見もみられた。このような実態から一つでも多くの研究,一つでも多くの実践例を情報として提供すべきであると考える。
第三は,自己教育力の育成の重視である。自己教育力とは,主体的に学ぶ意志,態度,能カであり,これからの変化の激しい社会における生き方の問題にまでかかわるものである。このことは,生涯教育の観点からみた学校教育の役割として,自己教育力の基盤形成は,学校教育に期待されるとしている。
社会が急速なテンポで多様に変化する状況において,自己の生き方,進むべき道の選択・決定,生涯をより豊かにしていくために主体的に学ぶ意志,態度,能力は,今後ますます必要になるであろう。児童生徒が時代の変化に対応できるように育てていくためには,自己教育カの育成が大切であり,主体的に学ぶ意志,態度,能力の形成や育成に力を注ぐ必要がある。
このような意味で,関心・態度の評価の意義を再認識し,その評価の在り方を追究することが必要であると考える。