研究紀要第62号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第1年次」 -000-01/049page
ま え が き
現代は教育の時代ともいわれている。家庭,学校,そして社会において,それぞれの機能を生かした教育が実践されている。学校においては,人間性豊かな児童生徒の育成を目指した教育課程を編成して日々の教育活動が進められており,特に教育の今日的課題にこたえるために生徒指導に重点をおいた指導も図られている。
しかし,その一方でいろいろな問題行動をもつ児童生徒が増えつつあるという矛盾した現象が生じている。しかもその問題行動は,複雑化,多様化,深刻化しつつあり,学校や家庭のみならず,社会の大きな問題になっている。発達の過程にある児童生徒が行動上の問題をもつことは極めて不幸なことであり,できる限り早い機会にその問題の改善・解決を図ることが必要である。そのための最も適切な方策として・近年・多くの帆心理的な指導援助としての教育相談の緊急性,重要性が叫ばれ・求められ研究実践が深められている。
さて,当教育センター教育相談部においては,10数年にわたる教育相談の実践をふまえ,さらに望ましい教育相談の確立を目指して,「事例を通した教育相談の進め方」の研究を行っている。その中で,本年度から2年問の継続研究として,「反社会的行動をもつ児童生徒への心理的な指導援助」についての具体的な研究に取り組むことにした。本年度は,研究の第1年次であるので,反社会的行動についての碑論研究と数多くの教育相談の事例の中から,学校種別,男女別などを配慮して選択した7つの事例研究をまとめた。
ところで,理論研究において,最初に児童生徒の問題行動の定義及び反社会的行動についての考え方を明らかにしたが,これらは教育相談をすすめるための前提であり,教育相談の担当者がまずもたねばならない「子供観」であろうと考える。また,事例はいろいろな意味で問題の様相を知る手がかりとなるが,その内容にのみ関心を持ちすぎると,時に望ましい教育相談の方向を誤ることにもなる。さらに教育相談においては,心理療法の理論に裏付けられた技法が必要であり,それぞれの行動の改善に適合する心理療法を使いわけるためには長い研修の期間が必要と思われる。
教育相談の終局のねらいは,問題行動をもつ児童生徒への指導援助のみではなく,すべての児童生徒を対象にした開発的な指導援助によって,児童生徒が本来もつ能力や適性を最大限に発揮し,適切に自己実現を果たしていくようにすることである。本研究が,児童生徒の問題行動の改善・解決はもとより他の教育活動の充実向上のためにも寄与することができるようになるならこの上ない幸せである。
未尾で恐縮であるが,本研究の推進にあたり多くの方々から御指導御助力を賜ったことに心から厚く感謝する。またさらに,本研究に対して率直な御批判,御意見をいただくことをお願い申し上げる。
昭和60年3月
福島県教育センター所長 舟山 昇