研究紀要第62号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第1年次」 -001/049page

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  「事例を通した教育相談の進め方に関する研究」

       反社会的行動をもつ児童生徒への心理的な指導援助

                ー第1年次ー

1 解題

 これは,標題に関する2か年にわたる継続研究のうち,第1年次研究の紀要である。第1年次研究においては,まず,小・中学生,高校生の反社会的行動の諸様相をとらえ,それらが発生するメカニズムや背景を構造的に明らかにする。つぎに具体的ないくつかの事例を取り上げ,児童生徒が反社会的行動を改善・解決していくための心理的な指導援助を行う。本研究では,この過程を教育相談と称することにするが,このことについて考察を加える。

 本研究のねらいは,これらのことを通して,反社会的行動をもつ児童生徒に対するより的確で効果的な教育相談のあり方を確立することである。また,本研究が,教育現場において,反社会的行動をもつ児童生徒はもちろんのこと,いろいろな問題行動を訴える児童生徒への指導援助に適用できるようにすること,さらには問題行動の発生の予防やより望ましい適応のための開発援助にも役立つようにすることがもう一つのねらいである。

 なお,研究を進めるにあたっては,当教育センター教育相談部の長年にわたる教育相談の成果が本研究に十分に具現できるよう配慮し,努力をした。事例の書式は,当教育センター教育相談部における事例研究法の様式にしたがうことを原則にしたが,それぞれ特徴のある書き方になっているのは,対象児童生徒の年齢,事例のもつ特性,採用した心理療法の特質等によるためである。

2 反社会的行動に関する基本的な考え方

 (1) 児童生徒の問題行動と反社会的行動

 現在,多くの場で,児童生徒の問題行動について論議されているが,問題行動は包括的で定義のしにくい概念の一つである。それは,児童生徒の行動を,いつの時期に,だれが,何を視点にしてどのようにとらえるかによって,問題行動のみかたが異なったり,変わったりするからである。

 児童生徒の問題行動とは,主として不安に基づく心因性の行為や行動の異常,もしくは広い意味での行為や行動の障害のことである。児童生徒の問題行動は,発達期にある児童生徒が種々の要因によって生じた不安を解消しようとして発した防衛反応による一時的な行為や行動,あるいは防衛しきれず,その行為や行動を示すことによって,ある意味で自己を環境に特異な適応をさせている行為や行動なのである。これには,原則として単なる知能や身体的能力,いろいろな身体的欠陥及び身体的機能の異常性による行為や行動の障害を含めない。

 さて,問題行動は,児童生徒の周囲の環境に対する反応様式によって,反社会的な行動と非社会的な行動とに区分することができる。反社会的行動とは,児童生徒が周囲の人々や環境に対して,社会の規範や慣行等に背反する攻撃的な行為や行動のことである。しかも,これらは多くの場合,社会に受け入れられないのが特徴である。非社会的行動とは,自ら置かれている環境から後退し,自分の中に閉じこもろうとする行為や行動である。

 この両者は,児童生徒個人とそれをとりまく環境との間に生じてくる不安感や不適応感等のあら


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