研究紀要第63号 「教育課程の実施に関する研究」 -003/093page

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一人一人を育てる社会科指導の在り方

―小学校5年「自動車工業のさかんな都市」の指導をとおして―

教科教育部 遠 原 肇 一

1.はじめに
 一人一人の子どもを確実に育てることができる学習指導を確立することは,現在の学校教育に課せられた重要な課題である。
 一人一人の子どもは,その顔かたちが違うようにそれぞれ異なった感じ方や考え方をする。また何ごとも素早く習得する者もいれば,ゆっくり時間をかけて習得する者もいる。このように考えたとき,これまで大勢を占めてきた一斉指導にのみ偏した指導の在り方を反省し,個性や能力に応じて,一人一人を育てることができる学習指導の在り方を確立することは極めて大切である。
 ところで,社会科は,社会事象に対する認識を深めることを通じて,公民的資質を育成することをその究極のねらいにしている教科である。このような社会科にあっては,画一的な一斉指導によって,そのねらいを達成するということは,ほとんど不可能であると言わなければならない。子ども自身がその一員である社会について認識を深めるには,子ども自身が自分の目で見,自分の頭で考えるほかはないからである。このように,社会科の指導では,とりわけ 「一人一人を育てる」という視点が重視されなければならないのである。
 そこで,この研究においては,次の事柄を検討することによって,「一人一人を育てる」ことが可能となる社会科学習指導の在り方を模索してみたいと考える。
 1 社会科における「一人一人を育てる」ことの意味
 2 事例として取り上げた小単元についての目標分析
 3 「一人一人を育てる」ための具体的方策
 4 「一人一人を育てる」小単元展開の構想
 なお,最後に,以上の事柄をふまえて行われた授業実践の記録の一部についても言及することとする。

2.「一人一人を育てる」ことの意味
 社会科において「一人一人を育てる」ということには,二つの意味が含まれていると考える。
 第一の意味としての「一人一人を育てる」とはすべての児童に,最低限必要とされる基礎的な事項を確実に身につけさせることである。すなわち基礎的な知識・理解や技能に関しては,個々の児童の学習成果の差異を可能な限り少なくしようとする「完全習得学習」の立場からの考え方である。
 第二の意味としての「一人一人を育てる」とはそれぞれの子どもの個性の違いに基づく,個性的な社会認識を育てることである。ここでは,児童の間の差異を少くするというよりも,それぞれの児童の異なった良さを認め.これを強化していこうということが強調される。
 以下,この二つの意味について,やや掘り下げて考察してみたい。

(1)完全習得学習の考え方
 社会科に限らず,いずれの教科においても,学年,単元などの学習指導の各段階に応じて,「これだけは必ず身につけなければならない」というような基礎的な知識・理解や技能が存在するはずである。


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