研究紀要第63号 「教育課程の実施に関する研究」 -006/093page
4.完全習得学習のための具体的方策
先に述べたように,完全習得学習の考え方は,すべての児童に,共通して学習すべき基礎的な知識・理解及び技能に関する目標を確実に達成させようとするものである。
こうした考え方を実際の授業に生かすためには,小学校や中学校における基礎的な事項は,適切な手立てさえ講じれば,すべての児童生徒にとって習得可能であるという指導観を持つことが,まずもって大切である。従来,教師は,児童生徒の能力には個人差があるから,自分の指導することは,何分の一かの者にとっては習得可能であるが,何分の一かの者にとっては習得不可能であるというような指導観を,知らず知らずのうちに身につけてきたのではあるまいか。こうした指導観に立つ限りは,完全習得学習の考え方を現実のものとするのは困難である。
次に,完全習得学習をすすめるにあたって,必要となる具体的方策をしっかりと準備しておくことが大切である。この具体的方策とは,一言で言えば,形成的評価(特に形成的テストによるもの)の機能を十分生かすことであると考える。
以下,この頃では,形成的評価の意義を明らかにするとともに,その一技法である形成的テストの在り方を,題材として取り上げた小単元における例を通じて考察することとする。(1)形成的評価の意義とその種類
従来,教師は,ともすると指導の終着点で行われる総括的評価をもってして,教育評価のすべてであるかのように考える傾向が強かった。これに対して,新しい教育評価の考え方は,指導と評価を一体のものとして見て,形成的評価を重視することをその特色としている。
形成的評価とは,学習過程の途中において,個々の児童が一つ一つの目標のうち,どれは達成し,どれは達成していないかを見てとり,その結果に基づいて,教師の指導と児童の学習を調整しようというものである。このような,教師の指導と児童の学習に対する調整の働きを一般にフィードバックとよんでいる。
評価からフィードバックに至る過程をフィードバック・サイクルとしたとき,形成的評価は,その長さによって,次の三つのものに分類される。表2 フィードバック・サイクルの長さによる形成的評価の分類
(注) この表は.梶田叡一「現代教育評価論」の中の記述を参考に作成した。
フィードバック・サイクルの長さ 特 色 評価の方法 長期的な形成的評価 ・学期に1回ないし数回程度のフィードバックをねらう。
・本来は,総括的評価であるものに形成的機能を持たせる。中間テスト
期末テスト
単元の総括的評価等中期的な形成的評価 ・単元指導の中で1回ないし数回程度のフィードバックをねらう。
・最低これだけは身につけさせたいという到達目標群について行う。形成的テスト 短期的な形成的評価 ・授業過程において,即時的なフィードバックをねらう。 観察法
自己評価法
相互評価法
教育機器の活用等
これらのうち,わが国において実践的な研究が進み,多くの授業に取り入れられているのは,短期的な形成的評価であることは,周知のとおりである。
しかし,B.S.ブルームが,「教授や学習の実際的な目的のためには,‥(形成的評価の)学習単位は,教科書の1つの章で扱われる内容,あるいは1〜2週間の指導で扱われる教材が適当である」(B.S.カレーム「教育評価法ハンドブック」)と述べているように,形成的評価の機能を最もよく発揮できるのは,中期的な形成的評価であると考える。
本研究においても,完全習得学習のための手だてとして,中期的な形成的評価とそのフィードバ