研究紀要第63号 「教育課程の実施に関する研究」 -012/093page

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 ただし,教師は漫然とこれを傍観していれば良いというわけではない。この活動の中で,教師のなすべきことには,次のようなものがあると考える。
 ●課題解決のために必要な資料の所在をあらかじめ明らかにしておき,適宜,資料収集のための示唆を与える。
 ●小集団の活動がゆきづまったときに,適切なヒントを与える。
 ●追究活動の成果をまとめる方法について示唆を与える。
 ●評価活動を行う。
 これらのうち,最後にあげた評価活動は,特に大切である。P.A3の表1に示した目標群のうち,6,7及び13の番号で表されている目標は,この場面の活動を観察することによって評価できるからである。従って,教師は,これらについて計画的に評価し,個人や集団の活動にフィードバックすることが必要である。

(2)個別的なまとめ学習
 前にも述べたとおり,興味・関心に基づく選択学習は,個性的な社会認識を育てる上で重大な契機となるものである。しかし,それだけでは十分とは言えない。個性的な社会認識というものは,結局のところ個別に成立するものだからである。
 そこで,小単元のまとめの段階に,個別学習を取り入れ,その小単元の学習内容を自分なりにどうとらえたかを表現する活動を設定することが必要であると考える。具体的には,その小単元の学習内容を,作文,図,イラスト,表,あるいはそれらを総合した新聞もしくは小冊子などに表現する活動が考えられる。
 この作業に取り組ませる場合,学習内容を「人間の次元」でとらえなおさせるという視点を忘れてはなるまい。社会認識というのは,究極のところ社会的存在としての人間をとらえることにほかならないからである。
 たとえば,歴史学習の場合,教材として取り上げた人物の業績についてのあれこれの知識が豊富になっただけでは,不十分である。そのような知識を土台にして,取り上げた人物や多くの同時代の人々の願い,苦しみ,悲しみ,喜びといったものを個々の児童なりに,とらえることができたとき,はじめて社会認識が育ったと言えるのではあるまいか。
 産業学習でも,同じことが言える。すなわち,その産業にたずさわる人々の願いや苦労を共感的にとらえ,「こう考えているにちがいない」とか「こんなことを言うにちがいない」というような言葉で表現できたとき,児童の社会認識が育ったと言えるのである。
 このような見地から,本研究では,個別的なまとめ学習として,自動車を生産する人々のようすをイラストとふき出しでまとめる作業を設定している。

 以上この項で述べてきたように,個性的な社会認識を育てるためには,主体的な追究活動の契機となる「興味・関心に基づく選択学習」と,追究してきたことを,個々の児童なりにとらえなおす「個別的なまとめ学習」との二つが,小単元の中に組み込まれなければならないと考える。

6.小単元展開の構想
 これまで,社会科において「一人一人を育てる」ということは,「完全習得学習」と「個性的な社会認識の育成」という2つの意味を包含しているものであることを明らかにし,その具体的方策として,次の3つがあることを示してきた。
方策1  形成的テストの実施及び基礎的目標未達成者に対する補充的学習
方策2  一人一人の興味・関心に基づく選択学習
方策3  個別的なまとめ学習

 これらの方策は,小単元学習の展開のうちに適切に位置づけられ,それに基づいた指導が行われたときに,はじめて「一人一人を育てる」ための有効な力になると考える。


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