研究紀要第63号 「教育課程の実施に関する研究」 -044/093page
いての示唆を与え,心構えを持たせるという効果がある。
また,児童が資料から離れ,自分自身のこととして価値を自覚する,いわゆる価値の一般化を図る際に,導入時の生活を再び想起することにより価値の深まりや広がりを自覚しやすいともいえる。
従って,日常のきまりなどについて道徳的な判断力を高めることをねらう授業では,有効な導入と考えられる。
なお,生活からの導入では,資料へのつなぎ目に断層を生じないことと,時間が長くかかりすぎないことなどに注意しなければならないであろう。<資料への直接導入>
鶴城小学校 2年 舟木ヨツ子教諭
―花咲き山―(親切・同情)の指導から
○本時のねらい
友達や自分より幼い人に対して,やさしい心や思いやりの心で接しようとする気持ちを育てる。
○導入の様子
授業開始。舟木教諭は,全く無言で黒板の左から右へと写真のような山(ア)を提示していった。
(ア)
児童から,「何だろう」「きれいだなあ」「花のようだ」などのつぶやきが聞こえる。
「花の勉強をします」といいながら(花さき山)と板書。続いて,「このお話に出て来る人は,『あや』です。」と写真(イ)を「昔の人のようだ」「ぞうりをはいている」「かまを持っている女の子だ」などの声を聞きながら,「もう一人います。はいこの人です。」と写真(ウ)の等身大の山んばを目線が合うように黒板にはっていった。児童の中にため息まじりの驚きとささやきが聞かれる。
(イ)
(ウ)
「このお話をします」と(ウ)の山んばを取り山んばの後ろで,山んばが語るように資料を読み聞かせていった。物音一つ聞かれないほどに教室中が静まりかえり,児童は,この物語の中に完全に浸っていった。舟木教諭のこの導入は,本当にすばらしく,印象的であった。
このように資料へ直接導入するのは,理科の授業などでよく行われる教師の演示実験により児童の興味や関心を誘発し,問題把握をさせていく手法に似ている。資料を読ませたり,聞かせることからの導入もあるが,写真,さし絵,実物や模型の提示からの導入も効果的であると考える。
特に,文学作品ともいえる物語などの感動的な資料を用いて道徳的な心情を深めるような場合は生活からの導入よりも児童の心を動かしやすいのではなかろうか。
しかし,資料へ直接入っていく導入は,児童が資料に没入してしまうことを強めたり,価値の一般化を難しくしたりすることがあるので注意していかなければならないであろう。(2)価値の一般化について
「資料を通して追求,把握された道徳的価値を現在および将来にわたる児童の生活経験と結び付くものとして,主体的に自覚させることが要求されるのである。つまり,ねらいとしている道徳的価値が,特殊な事象にだけ妥当する価値としてではなく,多くの事象にも適用されるべき共通の価値としてとらえさせることが必要となってくる。 このための手だてが 道徳的価値の一般化 と呼ば