研究紀要第63号 「教育課程の実施に関する研究」 -049/093page

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論理的な表現能力を高める図形指導

教科教育部 原 田 伊佐雄

1.は じ め に
 臨時教育審議会の第一次答申の八つの改革の基本的な考え方の(3)に「創造性・考える力・表現力の育成」が掲げられている。その中で「これからの社会においては知識・情報を単に獲得するだけでなく,それを適切に駆使し,自分の頭でものを考え,創造し,表現する能力が一層重視されなければならない。従って学校教育においては基礎・基本の上に創造性や論理的思考能カ、想像力などの考えるカ 表現力の育成を重視すべきである。」と述べられている。また,中学校学習指導要領の数学科の目標でも「数学的な表現や処理の仕方についての能力を高めるとともに,それらを活用する態度を育てる。」とのように,数学教育においても論理的な思考力や表現力の育成の必要性を強く示唆している。従って,論理的な思考力や表現力の育成は,これからの数学教育において特に重要とされる中心的なねらいとして考えられる。
 ところで,数学科における論理的な思考力や表現力の育成は,数学科の内容全般にわたって行われなければならないが,特に第2学年の図形領域において,数学的な推論の取り扱いとして重点的に指導される。その理由のひとつとして,図形の領域での指導は,数や式などの領域と違って,図形はその実体を視覚的にとらえることができ,推論の方法や結果をある程度直観的に予想できるので,論理的な思考力や表現力を育成する材料として適していることがあげられる。
 しかしながら,ここでの図形指導は,演繹(えんえき)的な推論という抽象的な思考活動が中心であるために教える側にとっては指導の難しいところである。そのため,図形の証明指導においては,ややもすると,証明の形式的な記述指導だけに力を入れる傾向があるといわれているので,生徒の論理的な思考力や表現力を育成するためには,証明の必要感を持たせる指導,証明の考え方の指導,口頭表現から記述表現への段階的な指導などの工夫が必要であると考える。
 そこで,本研究では,中学校第2学年の単元「平行と合同」「平行四辺形」(東京書籍)を取り上げ,論理的な思考力や表現力を高める指導の工夫を具体的な方法や事例を通して述べてみたい。

2.図形指導の目標・系統
(1)図形指導の目標

 中学校数学科における図形領域の目標とするところは,次の2つにまとめることができる。
1 平面図形及び空間図形についての基礎的な概念や性質の理解を深め,それを応用する能力を伸ばす。
2 図形に対する直観的な見方や考え方を伸ばすと共に,図形の性質の考察における数学的な推論の方法について理解させ,論理的な思考力や表現力を伸ばす。
 1は,図形そのものにかかわる内容であるといってよく,基本的な図形の概念や性質を理解させることによって,適切に図に表現したり,正しく作図したりする能力を育て,図形についての知識や技能を広く応用する能力の育成を目指している。2は,図形を通して,小学校から育てられてきた直観的な見方や考え方についての能力を一層伸ばすと共に,論理的,抽象的思考がだんだんできるようになる生徒の発達段階に合わせながら,数学的な推論の意義や方法を理解させ,正しい筋道で推論できる思考力や論理的な表現力の育成を目指している。


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