研究紀要第63号 「教育課程の実施に関する研究」 -052/093page

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ための努力をしていないことが考えられる。
E 図形の証明指導上,教師側の困難点や悩みはどんなものですか,ありましたらお書き下さい。
○ 結果のまとめ(問題点と原因)
1 図形に対する基礎的な能力が低い。
・図形の用語・記号の意味を正しく理解していない。
・正確に作図することができない。
・基本的な図形の性質を見いだせない。
2 個の能力に応じた指導が難しい。
・ゆとりを持って多様な証明の筋道を考え,それを個の能力に応じて生かすのが難しい。
・数や式の計算問題のように,能力差に応じた問題の作成が困難である。
3 図形の証明に対する学習に意欲的でない。
・わかりきった内容が多く,新鮮味がない。
・教師主導のおしつけ授業が多い。
・証明の必要性や有用性を感じさせる教材が少なく,必要感を持たせる指導が難しい。
・生徒の能力によって違いはあるが,物事を筋道を立てて考えることを一般に好まない。
4 段階的な証明指導が不十分である。
・指導時間の不足から,証明の記述指導のみに力を入れやすい。
・第2学年の図形領域全体を見通した指導計画がないために,学習内容に応じて段階的に身につける能力が明確になっていない。
5 評価が難しい。
・論理的な思考力という抽象的な能力のため的確に評価することが困難である。
・図形の性質や平行線の性質あるいは合同条件などの知識の評価に片寄りやすい。
・証明を記述したものでのみ評価しやすい。

(7)アンケート調査のまとめ
 アンケート調査の結果については,これまで設問(A〜E)ごとに分析と考察を加えてきたが,それらを要約し,今,教師が図形の証明指導に当たってどのような問題に直面しているか,また,その原因は何かを考え,それらの問題についての解決策を探ってみたい。
1 証明のために必要な基礎的な能力を明らかにする。
 この学年における図形指導では,生徒の図形の基礎的な知識や技能についての個人差が大きく,また,図形学習に対する興味・関心の度合いも差がある。そこで,生徒一人一人の図形に対するレディネスを把握し,その実態に基づいて証明のために必ず必要な基礎的な能力をおさえる。それは,個人差に応じて適切に用いることができる。
2 証明指導では,段階を踏んだ指導ができるように計画する。
 我々教師は,ともすると教科書に例示されている形式の整った証明をいきなり生徒におしつけやすい。しかし,生徒にとっては,それまでにいくつかの段階を踏んで,論理的な思考や表現のできる能力を学ばねばならないのである。そのために,論証のはじめから計画的な指導の段階を設定し,それぞれの段階で身につける能力を明確にした指導計画を作成して,見通しを持った指導をする。
3 学習の到達基準を明確にした評価基準を設定する。
 ここでの図形指導は,図形の性質の考察と演繹的な推論の2本立てであるために,評価の観点と基準があいまいになり,的確な評価が困難になる。そこで,単元の学習内容を生徒の実態を考慮しながら目標分析をし,内容の精選と重点化を図ると共に形成的評価にも活用できる学習到達基準を設定する。
4 授業の中に生徒の主体的な学習活動の場を位置づけた証明指導をする。
 図形の証明指導においては,教師中心の授業になりやすい。そのために,生徒が自ら証明の方法を見つけて解こうとする主体的な態度が育ちにくくなる。また,証明の楽しさも味わうことも困難である。証明指導にこそ主体的な学習活動が必要であると考える。


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