研究紀要第63号 「教育課程の実施に関する研究」 -053/093page

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4.図形指導における論理的な表現能力を高めるための方法
 論理的な表現能力を高めるためには,中学生の発達段階の特徴から考えて,その指導は徐々に段階的に進めるべきであると考える。また,論理的な表現能力は,いろいろな基礎的能力が必要であり,そして,指導する側も長期的な見通しを持って指導計画や方法を考えることが大切であろう。
 そこで,図形に関する内容を素材として,演繹的な推論の方法を用いて指導する図形の証明を通して,数学的な推論の意義と方法を理解させ,論理的な思考力や表現力を高めるための方法について,次の四つの方法を設定した。
(1)証明のための行動目標の設定
 証明指導のねらいを具体的に「証明のための行動目標a〜g」を設定し,それらの達成を図れば,学習指導要領に示されている第2学年の目標(3)(図のABC)の目指す能力が高まると考えた。これらの関係を次の図のように表した。
1年 直感的な見方や考え方ができる。   A 数学的な推論の意義と方法を理解できる。―――― C  推論の過程を正しく表現できる。
証明のための行動目標             ↑
a 適切に図に表現し.正しく作図ができる。
b 証明の必要感を持つことができる。
c 用語・記号を的確に用いることができる。
d 命題の仮定と結論を正しく指摘できる。
e 証明の根拠となる事柄を明確にできる。
f 証明の筋道をいろいろな観点から考えられる。
g 推論の進め方に興味や関心をもつことができる。
            ↓
図形の性質を考察する
  B 論理的に筋道を立てて推論できる。―――――――

(2)証明指導のための段階の設定
 中学生の発達段階からみて,演繹的な推論を用いた図形の証明の導入は可能になるが,いきなり,形式の整った書き方を指導しても論理的な思考力や表現力を育てることはできない。どのへんから論証らしきことをはじめ,どのような順序で高めていくかを考え,生徒の実態に合わせた段階を踏んだ指導を計画することが必要である。そこで,右の表のような証明指導の段階を4段階に分け,段階ごとの指導目標を設定し,それに,指導内容と(1)の行動目標a〜gを位置づけた4段階指導計画を作成した。

  指 導 目 標 指導内容 行動目標
第1段階 証明らしいことを始める段階で,図形の性質についてある判断をさせ,それの正しい理由を考えさせる。 対頂角の性質

平行線の性質

a  b
第2段階 証明の必要感をもたせる段階で「三角形の内角の和が2∠Rである。」という基本性質を用いて、筋道をを立て正しい推論をしようとする態度を育てる。 三角形の内角と外角

多角形の内角と外角

a b c
第3段階 推論の過程を口頭で述べる段階で,話し言葉に近い表現でよいから,推論の順序を筋道立てて,平行線の性質や三角形の合同条件などの基本の性質を用いて正しく表現できるようにする。 合同な図形

三角形の合同条件

図形の性質の調べ方

c e f g
第4段階 推論の過程をわかりやすく記述する段階で仮定と結論,証明の根拠となる事柄を明確にして「図にある記号,ゆえに,または,したがって,一方,よって、同様に」などの言葉を用いることに慣れさせ証明を簡潔に表現できるようにする。 三角形の性質

仮定と結論

平行四辺形の性質

平行四辺形になるための条件

c d e f g


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