研究紀要第63号 「教育課程の実施に関する研究」 -066/093page
総合科学が必要である。この総合科学には,従来の人文科学の系統から見る観点と同時に,人間の活動,営みなどの観点が必要となる。そして,そこで取り上げられる実験・実習は家庭科独自のものになるであろう。家庭科での実験・実習は他教科と基本的価値を共有しながら,独自の教育的価値を認識する必要がある。それは実験・実習で家庭科の「実践的能力」を育成することを意味する。
従って,家庭科の実験・実習は,実験室,実習室にこだわらず,その場を広くし,事象確認の実験内容だけでなく,「発見」や「比較」の実験をも組み入れ,実験・実習を広義に把握することが必要である。このように考えると,従来,一般的に実験・実習の対象領域と考えられている,食生活,衣生活の実験・実習題材も拡大されるし,実験・実習があまりされていなかった住生活の領域や分野についても再検討することが必要である。(2)家庭科における実験と実習の違い
家庭科の実験・実習について前述したが,実験と実習の違いについて考えてみる。
「実験」―理論や仮説が正しいかどうかを,人為的な操作により,実地に確かめてみる。
「実習」―技術を実地について習うこと。
と,国語の辞書にはのっている。
また,教育学事典をみると
「実験」は,きわめて多くのことを意味しているが,「仮説に基づいて,予測される事象を確かめる」方法が中心となる。
「実習」は,「技術を学んで技能を習得する」方法に重点をおくと考えることができる。
実験による学習は
1 確実な事象を認識する。
2 問題解決の方法を習得する。
3 事象に対する科学的態度を育成する。
うえで重要である。そこで,習慣的な生活経験,常識的な生活事象が学習のベースである生徒にとって,家庭科で生活を科学的に探求する学習方法として重要である。
実習は,はじめ,運動技能,精神技能を総合的に習得させる学習として取り入れられたが,戦後の教育改革によって重視した技術系教育の伝統が失われ,「実習は知識を確実にする」学習方法として重視されるようになり,「わかる」−「考える」−「できる」−の学習過程により,家庭科では「できる」科目に意図することが必要である。実習は単なる技術を学ぶのではなく,生活に生かす学習として設計すれば,価値は高まる。(3)家庭一般の実験・実習題材選定の条件
学習指導要領に,実践的・体験的学習を重視し実験・実習に充てるペき授業時数が,原則として10分の5以上とすると授業時数の割合が明示されたので,各方面でどんな題材を取り上げるか研究されている。ところが実験・実習を数多く取り入れれば良いと言う考えが先走り,内容の精選が見落とされたきらいがある。
特に,広範囲の領域を扱う家庭一般は,家庭科の基礎科目であることを認識し,しかも家庭一般だけ履修する生徒のことを考え,実験・実習の内容を吟味し取り上げることが大切である。
次に,家庭一般の実験・実習の題材の条件をあげる。
1 基礎的・基本的なものである。
2 理論や予測を明らかに実証でき得るもの。
3 能率よく合理的にできるもの。
4 発達段階に沿ったもの。
5 実験・実習用具は,家庭科らしい日常的なものを活用し,身近なもの。
6 実験条件定数は厳しくし,結果を検討したり比較できるもの。
7 生活の場面で考えさせられるもの。
以上のことを十分考慮しながら,実験・実習の題材を取りあげる必要があろう。
特に,「衣生活の設計・被服製作」の内容については製作実習が中心に指導が行われてきた。製作することはその過程で,思考力や,生活に必要な技術等を習得できるという点では有効である。
しかし,近年においては良質で豊富な既製品の