研究紀要第67号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第2年次」 -010/066page
5.診断
本人は両親や担任から承認されることが少なく 家庭内での抑圧された不満や淋しさと,学校生活 で満たされない思いを,周囲に対する反抗や攻撃 などの身勝手な行動として表わしていると考える
なお,次のような事実から基本的には医学的な 問題の「注意欠陥障害」の傾向をもつと考えられ る。
(1) 学習に対する集中心に欠け,根気がつづか ないこと
(2) 粗大な運動への取り組みはよいが,リズム 感や集団行動などで調和のとれた動作がとれない こと
(3) 知能と学業のアンバランスが大きく,特に 頭語・算数科にその傾向が強く見られること
(4) ささいなことで,すぐカッとなり自分の気 持ちをおさえられなくなることこれらのことを考えると,注意欠陥障害に心理 的間遠が関連している行動と考えられる。
6.指導仮説
(1)両親へ
- 医学的な問題についての診断を勧める。
- 両親は本人のとりやすい行動,能力を理解し,叱責,命令,指示,禁止をひかえる。
- 両親は子供の養育について一致してあたるようにする。
- 父親が本人に積極的に働きかけるようにする。
- 母親は兄妹を公平に扱い,本人に不満や淋しい気持ちを抱かせないようにする。
(2)本人へ
- 学習のつまずきの実態を正しく把握し,本人の能力に応じた課題から取り組ませ,解決できた喜びを体験させる。
- 運動を通して,ルールを守って競技することの大切さをわからせ,集団生活での望ましい過ごし方ができるようにする。
(3)担任として
- 本人と話し合う機会を意図的に設け,本人とのラポールを深めあう。
- 本人の行動パターンを把握しておき,問題を起こさないように事前に対応する。
- 能力に応じた個別指導をする。
- 学級での役割を持たせ,最後まで責任を持ってやり遂げるよう機会をとらえて援助する。
- 担任が意図的に学級会活動の中で本人を承認する機会を設定するとともに,座席がえや班の メンバー構成などを考え,全員が学級の一員としてあたたかく本人をむかえる雰囲気をつく
7.指導援助の経過
(1)両親への働きかけ
● 6月の授業参観日の個別面接
本人の行動の間題点について母親と話し合う。 学校生活の中での主な間題点を客観的な資料に基 づいて説明をし,理解を求めた。その上で家庭で の具体的な対応のしかたについて話し合った。
母親 (以下,母とする)「家庭でも時々姉や妹に乱暴するのです。そんな時,お父さんはあまり注意をしないので,つい私がおこるようになってしまうんです」 担任 (以下,Tとする)「ご両親でよく話し合われて,母親がなすべきこと,父親がなすべき役割を考えて,ど夫婦が一致した考え方で本人にやさしく接してみられたらどうでしょうか」 母 「そうですね。そうしてみます」 ● 夏季休業中の家庭訪問
両親と面談,本人の学校生活における行動と学習,家庭での生活について話し合った。
T 「学校では感情的に行動することがとても少なくなっていますが,家ではどうですか」 母 「家でもちょっとしたことで怒りだすことはほんとうに少なくなっています」 父親 (以下,父とする)「家内と話し合って,休みの時などキャッチボールの相手をしたりする