研究紀要第67号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第2年次」 -013/066page
T 「世話を忘れると死んでしまうかもわかんないよ,だいじょうぶかい」
C 「やります。忘れないようにがんばります」 飼育小屋の掃除や当番の仕事を他のメンバーと 一緒にやるようになった。しかも自分の当番でな い日まで世話をしようとしている姿さえ見られる ようになった。
● 学校行事での役割をもたせて
運動会の係活動をきめる時,自分から進んで準 備係を希望した。一時途中ややだらけたところが あったが,係の先生のはげましで会の終了までみ んなと協力してやりとげることができた。
T 「準備係は忙しくて大変だったろう」
C 「そうでもなかったよ。自分でやりたかった係だから」
T 「準備物が重かったり,大きかったりして持ち運びでけがしなくてよかったね」
C 「5年のB君は,跳び箱で手をはさめたけどぼくはだいじょうぶだったよ」
T 「ゆっくり競技が見られなくて,途中いやになったんじゃないかな」
C 「おもしろい競技だとつい応援してしまって準備を忘れそうになりました」
T 「最後までよくやりとげたね。はんとうにごくろうさま」
C 「‥…(にこにこしている)」 8.考察
両親が養育態度の問題に気づき,叱責,命令, 禁止などをひかえ,承認を多くした本人への働き かけは,本人の問題行動の軽滅に役立ったと思わ れる。特に父親の積極的な働きかけは,本人に自 信さえ与えている。
仕事を最後まで行えるようになったことは大き な進歩であった。仕事の途中で,本人の行動を認 め,励ます,学級全員の前で仕事ぶりを紹介する, などの教師の肯定的な働きかけが本人の気持ちを 安定させ,積極的な行動に結びつけたと考えてよ い。
教師の肯定的な働きかけはまた,本人との信頼 関係をつくりあげた。これによって,本人が学級 担任の個別的な指導を素直に受け入れる心情をつ くり,学習意欲を向上させることにもつながった。
また,座席を学習面で本人に対して援助できる 子や本人が望んでいる子などを特に配慮して,自 由な中に教師の意図の強く入った編成を行うなど, 友人関係の調整も図った。次の表は,学級のソシオ メトリーの変容である。
男女 月 被選択 被排斥 男 5 月 5 5 子 10 月 8 2 女 5 月 0 4 子 10 月 2 1 被選択が増え,被排斥が減少した。これは,本 人の行動がクラスメートに迷惑をかけることが少 なくなってきた結果として理解してよいと思われ る。
学級集団からの承認は,さらにその他の活動に, 意欲的な取り組みとなって表われてきている。理 科や体育の時間など,クラスメートからリーダ− として推され,積極的に活動するようになってき たのである。
学級担任は,両親へ医学的な診断を勧めたが, 両親はまだその必要性を認めなかったために,無 理をすることは避けた。しかし,今後の指導援助 には医学的な診断汲び治療が,是非必要と思われ るので,両親の理解を得る働きかけが大切である。