研究紀要第67号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第2年次」 -022/066page
っていった。
そして,そのつらさから逃避する姿として母親に甘える様子を示したが,母親はそれを理解せず に拒否し,絶えず叱咤した。
その後も学校では,高い知能を示しているにもかかわらず,学習成績が著しく下降し,教師から たびたび「怠け」を指摘され,教師への不信感を抱きはじめた。また,学習不振から高校進学への 挫折感を抱きはじめ,進路に対する希望を失い,学習意欲が消失していき,次第に怠学的な行動を 示すようになった。
加えて,学級内に親友がいなかったこと,たまたまA男を受け入れてくれる他の中学校の反社会 的行動をもつ集団に出会い,様々な反社会的行動をとるようになったものと考えられる。
6.指導仮説
本人及び両親に対し,カウンセリングを中心にして指導援助を進める。
(1)情緒の安定を図るために
[1] 本人に対して
本人の性格,現在の生活状況,進路などについて自己洞察をさせる。
[2] 両親に対して
本人への両親のかかわり方を「受容的,肯定的に接する」よう改善することにより家庭不適応感 をとり除くとともに,本人の生活を積極的に支援する。
● 父親は,否定的,暴力的なかかわりを厳に慎しむ。
● 母親は,本人の言動を受け入れるとともに,承認,賞賛,奨励を与えるようにする。[3] 学校では
● 本人への教師のかかわり方を「受容的,肯定的に接する」よう改善することにより,本人と 教師との良い人間関係をつくる。
● 学級における所属感を持たせることにより学校不適応感をとり除く。
● 交友関係の改善を図る(2)規範牲を育てるために
[1] 本人に対して
本人に自分の行動を見つめさせ反省させるとともに,規則や正義について具体的に,繰り返し教える。
[2]両親に対して
本人に対して両親が規範的な生活態度を示す。
(3)学習意欲を高めるために
● 学習意欲検査をもとにして,学習相談をする。
● 進路の目あてを確実に持たせる。7.指導援助の経過
(1)情緒の安定を図る指導援助
[1] 家庭不適応感をとり除く
学級担任がたびたび家庭訪問を行い,両親と,A男の養育について話し合いを重ねた。
● A男に対する両親のかかわり方を省みる。
父親 (以下父と記す)「普段は無口なんですが,酒を飲むとつい怒鳴ったり,乱暴したり…」
母親 (以下母と記す)「そんなときの父さんには情けなくなったり,腹が立ったり…つい口げんかになってしまうんです。父さんに叩かれたときには,子供たちを連れて実家に帰ってしまおうかと思ったことがありました」
「そして,父さんが頼りなく思われるものですから,せめてA男にだけはしっかりしてもらなければ…と思い,勉強や高校進学については,毎日のように言い聞かせています」
● A男の知能・学業について話し合う。
担任 「知能は“5ランク“なんですが,5教科(国,社,数,理,英)の学力は“2〜3ランク“で, 学業不振の状態なんです」
父 「なあに,A男は怠けているから,勉強していないから,あたりまえ…」
母 「A男は小学校3年生のころまでは家で宿題などをよくしていたのに…中学校に入ったとき も家で机に向かうようになったのですが…」 父 「そのころ,私は,洒を飲んで大声で怒鳴り散らしていたからな…」