研究紀要第67号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第2年次」 -023/066page
母 「そう,そんなことでしたから,A男も,妹も,家で落ち着いて勉強できませんし,頭にも入らなかったんだと思います。そして,だんだん家で勉強しなくなりました」 父 「母さんも,やれPTAだ,婦人学級だ…と外へ出ては,夜遅くまで家に帰って来なかったことがあって,ずい分子供たちに寂しい思いをさせて…」 父親も母親も,初めのころはお互い不機嫌な顔 をして,非難めいた振り返りの会話を交わしてい た。しかし,担任が回を重ねて家庭訪問を行い, 両親の言葉や行為に対し,何らの非難をすること なく,受容的,肯定的に聞き入れているうちに, 次第にA男へのかかわり方を反省し始めた。
担 「お父さんもお母さんも,そのころは何か容易でない,つらいことがあったのでしょう」 父 「会社のことや,お金の工面‥‥‥いろいろあっ てね…。A男が中学生になったばかりのころかな‥‥‥A男が勉強していたとき,私は,あい変 わらず酒を飲んできて,ぐずぐず言っていた。 そしたら,A男のやつ,夜家出をしてしまったっけ…」 母 「私も,そんな父さんの姿を見ると,つい,『酒ばかり飲んでいて,ちっとも子供らのことを面倒見ないんだから…』などと,子供たちの前で 夫婦げんかをしてしまいました」 父 「あれでは,A男は落ち着いて勉強できるわけがない…」 母 「家出するのも無理なかったわね。家庭の雰囲気がよくなかったもの」 父 「兄(A男)よりできのいい妹と比べて,ばか者,怠け者あつかいをしていた」 母 「A男はそれで,『どうせおれはだめなんだから…』と,よくやけっぱちになっていた…」 父 「それでA男はやる気をなくしたのかも知れないな…」 このような話し合いの後,しばらくしてから父 親は次第に,酒を飲んでもぐずぐずいうことが少 なくなってきた。暴言や乱暴も減ってきた。お酒 の量も少なくなってきたと母親はいう。しかも, ときどき父親はA男に「勉強ははかどっているか」 「塾への行き帰り,自転車でけがなどしないよう に…」などと,いたわりの声をかけるようになっ た。
母親は,A男の塾からの帰りを待っておやつを 作ってやったりしている。
また両親はA男の妹に対して次のようなかかわ り方をするようになった。
母「お兄ちゃんは高校受験なんだから,勉強のじ ゃまをしないように…」
父「おまえもお兄ちゃんのようにがんばりなよ」両親のこのようなかかわり方のためか,A男は 両親や妹との言い争いが少なくなってきている。 また,学校からの帰り,塾からの帰りの時刻が定 まってきた。さらに,家庭での学習への取り組み にも落ち着きが見られるようになってきている。 就寝時刻,起床時刻もリズムにのり,学校の始業 時刻にも遅れることがなくなってきた。夜間外出 は全くしなくなった。
[2] 学校不適応感をとり除く
他の中学校の反社会的行動をとる仲間とのつき 合いがあることから,級友からは敬遠され,先生 方からは何かにつけてマークされ,注意されたり 叱られたりした。そのことから,級友や先生方と の関係がまずくなり,学校不適応感を抱くように なった。これに対し,担任は次のような指導援助 を進めた。
● 折にふれて温かいことばかけをする。全教師にもこのことをお願いした。
● 望ましくない行動(遅刻をする。授業申に教室を抜け出すなどの行動)に対して先生方が注 意をするのは当然であることをくり返し言い聞 かせた。
● A男に,学級への所属感をもたせるために,A男の趣味(熱帯魚の飼育)を生かすべく,学 級会にはかって,熱帯魚を飼うことにした。A