研究紀要第67号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第2年次」 -031/066page
(8)父親的役割をもつ学級担任の指導の一例
(10月下旬,文化祭を目前にした昼休み,教室で A子,B江,C美の3人とともに話し合い)
担 「もうすぐ,合唱コンクールだなァ」
A 「ビリはいやだね」
担 「点数つければどこかが一番で,どこかがびりになる。他の組を喜ばせてあげていいなァ」
B 「先生,担任なのにそんなこといっていいんですか」
C 「私たちは,今年は何とかしようって張切ってんですから。最近遅刻する人いないでしょ。朝 練の成果出てんです。(注,学級のリーダー連が呼びかけ早朝練習をしている)
担 「すまん。みんなの目つきが今迄とはずい分違う。あと一週間後の結果が楽しみだ」
C 「先生,がんばりますよ」
A 「男子もがんばってるし,先生,喜んでいいですよ」
B 「よそのクラスもやってるから。甘くないよ」
担 「うれしいだろうなァ,一番になったら。テープにとって,家宝にしとくかな,そん時は」
A 「バレーボールも強いですよ,今年は」
B 「でも,うちのクラス,バレー部いないから」
担 「あなたがいるじゃないか。すごいスパイク打つんだってね。体育の先生,B江さんのとこほめてたな」
B 「先生,口うまいですね。あの先生,本当にほめんのかな。声はでかいけど」
A 「私も廊下で会ったら,バレー負けんなっていわれた」
C 「ふ−ん。(がらりと口調を変えて)先生,進路の三者懇談はいつやるんですか」
担 「計画では冬休みに入る前からだ。家の人と話をしてるかな」
C 「まだなんです。私,高校へ入れるかな」
担 「高校に無事入れる秘訣を教えよう。時間を守ること,規則や約束を守ること。この二つをきちんと守ることだ。教師生活28年の歴史が物語る。不思議なもんで,これをきちんと守れた人はみんな希望の高校に入れるんだ」
(9)保護者へのアプローチ
この学級担任は,新たな学級づくりの一環として教育計画による保護者懇談会とは別に,校長の 承認と学年会の了解のもとに,月を定めて土曜日の夜7時から2時間,学区の公民館で,保護者懇 談会を開催している。最初の参加者は約70%であったが,第2回目以降はとんど全員が参加し,有 意義な会合となっている。実施月とテーマを紹介 する。(11月まで)
- 第1回(4月) 中学生の心理
- 第2回(7月) 3年生の生活と学習
- 第3回(9月) 親と子の対
- 第4回(10月) 生活心得
- 第5回(11月) 進路決定のしかた
A子,B江,C美の保護者も2回目以降毎回参加し,発言もするようになった。学級担任は,3 人の親に出会う度にその子をほめた。親は子供の教育に実に真剣になった。
8.考察
自己概念の変容を作文によって示す。
● A子―私は時々自分は何をしているのだろうと考えることがあります。これまで私はとても根性なしでした。いつもなさけない気持ちで いっぱいでした。しかし,今は先生やクラスの 友達に支えられ,生かされていると感じているのです。
● B江―2年生の時,授業なんかさっぱりき かないでおしゃべりばかりしていた。大きな声を張りあげたりもした。でも3年になって自分 のことがはじめて分かった。自分なりによい方向へ努力しよう。
● C美―チャイムが鳴ったら席に着く。遅刻 をしない。こんなに気持ちがよいとは思わなか った。悪かった。少しずつでも進歩したい。 3人の生徒の自己概念を変え,充実した中学校 生活を実現させたのは,この中学校の教師集団の指導力と人格である。