研究紀要第67号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第2年次」 -037/066page
親権者が処罰の対象となる。常習化した子供の禁 煙のためには親(特に母親)の禁煙も必要である。
・A夫に対して
喫煙は法律違反,親が罰される。健康を損なう。 また火災の原因ともなり,その場合多額の損害賠 償金を支払わねばならない。
(この事件は児童相談所送致となり,児童相談所 における「訓戒誓約」時にも,学校から禁煙指導 を依頼した。また,婦人少年補導員も二度家庭訪 問をして同様の指導を行った)
● 10・2
第2回目の禁煙表
月日等
9/17〜23 の喫煙本数
9/24〜30 の目標本数
9・24 9・25 9・26 9・27 9・28 9・29 9・30 計 氏名
A 夫 118 80 8 9 10 13 5 8 9 62 B 彦 94 60 6 12 10 13 6 5 5 57 C 郎 85 50 3 8 9 10 4 6 6 46 D 幸 51 30 4 7 4 2 3 4 3 27
学 「顔色がよくなった。遅刻しないのもタバコを減らしたせいだな。努力を認めよう」 ● 10・4
生徒指導主事と養護教諭による禁煙指導
「ネズミのニコチン中毒死実験」のスライドを 見せ,「生命にかかわる。絶対に吸うな」の強い指 導を行った。このころからA夫の両親のいずれかが夕方の一定時間自宅に居るようになってきた。
● 10・9
第3回目の喫煙表
月日等 9/24〜30 の喫煙本数
10/1〜7 の目標本数
10・1 10・2 10・3 10・4 10・5 10・6 10・7 計 氏名 A 夫 62 40 5 7 6 7 7 6 2 40 B 彦 57 40 9 10 4 0 5 6 4 38 C 郎 46 20 6 3 2 4 0 2 3 20 D 幸 27 10 3 4 0 0 0 0 0 7
学 「よく努力している。もう一息だ。私はお前たちを心から信じている」
● 10・11
学 級担任(以下「担」とする)「今もタバコ吸っているの」
A 「吸っちまう。先生」
担 「どんなとき」
A 「姉ちゃんもいない。父ちゃんもいない。退屈なとき」
担 「体がヤニだらけになってしまうよ。水泳をみっちりやって体をきたえるのよ」
A 「はい。もう少しでやめられそうです」 ● 10・16
第4回目の喫煙表
月日等 10/1〜7 の喫煙本数
10/8〜14 の目標本数
10・8 10・9 10・10 10・11 10・12 10・13 10・14 計 氏名 A 夫 40 10 4 5 0 0 0 0 0 9 B 彦 38 10 4 1 0 0 1 0 0 6 C 郎 20 5 0 0 0 0 0 0 0 0 D 幸 7 0 0 0 0 0 0 0 0 0
学 「A夫,すごいな中間テストの結果。すばらしいぞ。タバコをやめてきたから頭がすっきりしてきたんだ」 この一週問後に4人とも完全に断煙を果たし, 同時に他の問題行動も消失させた。
10.考察
この問題を解決したのは教師集団の総合力である。それは単なる力の集合ではなく,教師一人一 人の年齢,性,性格,立場に応じた役割の自覚,覇気,研究心の集合体といってよいであろう。
問題の核心は心理的な家庭の欠落であった。そ れを教師集団は,代理父,代理母,代理兄などを 見事に分担して,「家庭」を提供したのであった。 このことは,中学1年生でありながらすでに親不 信,教師不信の念を強く持つ生徒に親や教師への信頼感を回復させ,指導を素直に受け入れる素地をつくった。
数多くの反社会的行動の改善のために,断煙に標的を当てたことも適切であった。問題の本質への対処であったからである。
断煙の指導には行動療法は適当でないといわれている。タバコ,マッチ,資金,時間を物理的に 完全に断たなければ効果的でないという報告も多い。しかしながら,指導の目標を達成できたのは, 教師が生徒の自己治癒力を心底から信じたからである。