研究紀要第67号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第2年次」 -061/066page
5.考察
研究協力校を委嘱するにあたって,原則として学校カウンセラー講座の受講者及びその終了者の所属する学校から選択した。これは,教育相談の研究を進める際に必然的にカウンセリングに関する用語の解釈,理論や技法などの共通的理解が必要だからである。したがって,反社会的行動をもつ児童生徒の年齢,性別,問題の軽重や特質などを基準としたのではない。事例研究において,それぞれ異なる主訴となっているのは全くの偶然である。
小学校の2つの事例,すなわち「粗暴行為」と「いじめ」は,それぞれ教育上今日的意義を持つ事例である。
最近,理由を確かめることが困難で些細なことに衝動的に乱暴を働く子供の問題が注目されているが,前者は「注意欠陥障害」(Attention Deficit Disorder:ADD)の子供の教育相談の例である。これには脳の微細な機能障害を疑診し,児童精神医学の専門家の診断を仰ぐと同時に,教育的にどのように対処していくのが適切かの研究と実践が必要である。
指導援助者は教職歴30年のベテランの男子教員であった。子供の望ましい人格の発達のために教師と親とが連携して努力した人間的交流のようすが理解されよう。小学校に限らずADDまたは学習障害の子供をもつ教師が参考としてよい事例である。
いじめについては,学校のみならず社会の問題になっており,いろいろな人が意見を述べているが,指導の手本に窮しているのが実情である。いじめはいじめにこだわる指導ではなく,いじめをする子供の問題の改善と学級全体に正義といたわりの教育を継続することによって解決にいたるのであるが,それがよく理解される事例である。
指導援助者は,独身の若い女子教員である。性格検査を実施し,日常の観察や面接と照応させて,子供の問題点を正しくとらえて,適切にセルフ・イメージの変容を遂げさせている。カウンセリングの技法に用いているロール・プレイングは実に見事である。また一方では,家族問題にかかわる場合の教師の立場についての問題提起もなされているように思われる。
反社会的行動は.発生誘因との遭遇を契機として,まず一つの,次に多種類の逸脱行動を繰り返し逸脱度を高めていくのが一般的である。指導援助にあたっては,それらの行動に惑わされることなく問題の核心をとらえ,それにアプローチしていくことが要諦である。中学校の3つの事例ともそのことが適切に果たされている。
「怠学」の事例は,主訴を怠学としているが,いわゆる「つっぱり」の生徒の問題である。望ましくない親子関係→心理的な不安定→学業不振→学校での疎外感といわゆる「つっぱり」が形成されていく過程が明らかになっている。
指導援助者は教職歴15年の男子の中堅教員である。まさに本格的な反社会的行動に移行する寸前の生徒に誠意と責任をもって取り組み,親を変え,生徒を変え,しかも家庭生活に安定をももたらしたのである。それにしても,教師の立場でいえば,どのようにしていわゆる「つっぱり」が生まれていくのかが考えさせられる事例である。
「規則・約束破り」の事例は,家庭や学校に不適応感をもつ女子生徒が,規範逸脱集団をつくって意図的に規則・約束破りをする問題である。現在,多くの学校で女子生徒の品位に欠け軽率で粗野な言動の指導に苦慮しているところであるが,指導援助者は,この3名の女子生徒の問題を否定的な自己像ととらえ,肯定的な自己像を再形成させるための努力を行ったのである。
主体的な指導援助者である学級担任はもとより,これらの生徒にかかわるすべての教師が「肯定的含蓄による働きかけ」を忍耐強く続けていった。その成果は,これら3人の生徒のみならず他の生徒たちにも好ましい影響を与え,中学校本来のあの若々しく精気に溢れた真剣な教育活動を実現さ