研究紀要第67号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第2年次」 -062/066page

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せたのである。

 特に,教師集団がそれぞれ父親的,母親的などの役割を分担してカウンセリングにかかわったことは,今後の生徒指導のあり方の指針の一つとして役立つものと思われる。

 「喫煙」は実に深刻な問題を抱えた事例であった。中学校1年生でありながら巨大な心理的なエネルギーをもつ規範逸脱集団の反社会的行動を,教師集研が結束しより巨大でハイパワーな心理的エネルギーを集めて包み込み解決に至らせたのてある。今,共通理解に基づく生徒指導体制のあり方が話題にされているが,この事例の組織的な対処はそのことに対して大いに参考になるであろう

 組織的な指導には必ず主体者が必要であるが,この事例においては,カウンセラーとしての経験が豊かな学年主任であった。また,この学校は,警察署や児童相談所と学校の主体性を失うことなく率直な連携を保っている。このことも反社会的行動をもつ児童生徒の対処にあたって大切な要件と思われる。さらにこの事例にかかわった教師のほとんどは生徒と同様タバコを断ってしまったことを付記しておく。

 高等学校における生徒指導あるいは教育相談に対して,問題処理のルートや体制が確立されていない,学級担任の発言が重視されすぎ問題が学年または学校の問題としてとらえられない傾向がある,指導が一部の教師に委ねられる嫌いがある,そして見通しをもち計画的科学的に進められることが少ない,などの批判がある。しかし,二つの事例ともそのような批判とは異なり,生徒の発達段階や性別,家庭の事情などを十分配慮し,適切な指導体制のもとに細心の工夫を重ねて適切に問題解決を図っている。

 「喫煙と盗み」は教育相談を学ぶ教師にとって特に参考になる事例である。行動そのものは,昨今の女子高校生によくあることで,通り一遍の指導で見過ごされがちな事件であるが,実は複雑で深刻な問題を抱えている背景を見抜いた指導援助者の力量に注目すべきであろう。 指導援助者は教職歴20年余の男子教員である。資料の収集と解釈,それに基づく診断と指導仮説,見通しをたてて行う面接など,教育相談に精通した対処をしている。

 「自転車窃取」の事例は,高等学校でよく行われる懲戒処分にかかわる教育相談であった。懲戒処分の型通りの事後措置としてではなく,それを契機にして,自我同一性を確立しようとしてもがいている生徒と養育に悩んでいる親に親身になって指導援助を行い,親子ともども人生への新たな展望を開かせた。

 指導援助者は教職歴30年余の男子教員である。教師のもっあたたかさと肯定的な働きかけの有用さをかみしめてみたい対処であった。

 教育相談は実に忍耐のいる教育的働きかけである。いずれの事例とも本質的問題の改善・解決には長い時間を要しているのである。しかしながらそれが果たされれば,たくましく思いやりのある日本人が誕生するのである。

 研究協力校の指導援助者はまさしく新しい日本人の生みの親である。これらの指導擾助者の氏名を明らかにできないのは誠に残念である。 深い敬意の念を表すとともに,すばらしいカウンセリングとご協力に心から感謝する。


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