研究紀要第70号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第1年次」 -001/071page
事例を通した教育相談の進め方に関する研究
―非社会的行動をもつ児童生徒への心理的な指導援助―
(第1年次)要 旨
この研究のねらいは、非社会的行動をもつ児童生徒に対し、より的確で効果的な教育相談の進め方を確立することである。そのために、非社会的行動の背景、発生のメカニズム、指導援助のあり方を小・中・高等学校の児童生徒の事例を通して帰納的に追究した。
研究を通して、以下のことが明らかになった。(1) 非社会的行動を持つ児童生徒にみられた主な特徴は、身体症状の存在、神経質で積極的に自己表現をしない性格傾向、狭い友人関係、自立や人間関係を疎外する親の養育態度などである。
(2) 非社会的行動は、幼児期から満たされない人間関係が存在するところへ誘因が作用し、それに非社会的行動に結びつく性格傾向が関係して発生する。(3) 望ましい指導援助のためには、児童生徒と指導援助者との温かい人間関係を基本とし、資料収集、診断、指導仮説を段階的に踏まえ、非社会的行動の特徴を十分に理解して対応することである。
1. 解 題
本研究は、「事例を通した教育相談の進め方に関する研究」の中で、既に完結した『反社会的行動をもつ児童生徒への心理的な指導援助』と相互に補い合って一対をなすものである。研究の第一のねらいは、非社会的行動の背景とその発生のメカニズムを明らかにし、更に、効果的な指導援助のあり方を確立することである。
第二のねらいは、非社会的行動をもつ児童生徒への適切で効果的な指導援助の事例を提示して、教育現場への指導資料として役立てることである。第1年次の研究構想は、次の通りである。
まず、非社会的行動についての考え方、種類と内容、実態等を明らかにする。その後、学校における非社会的行動をもつ児童生徒への指導援助の成功事例から、非社会的行動の背景、発生のメカニズム、効果的な指導援助等を帰納的に追究する。更に、教師対象に「問題行動の指導に関する調査」を実施し、非社会的行動についての各教師の受けとり方を統計的に探り、効果的な指導援助のあり方の確立に役立てる。
第2年次は、第1年次の研究成果を踏まえ、非社会的行動をもつ児童生徒への指導援助に当たる。その際、指導援助者に望まれる人間性にまで着目することを研究の内容として重視したい。なお、この研究は、非社会的行動の改善や解決にのみとどまるのではなく、問題行動全般の予防と、更に、児童生徒への開発的な指導援助に役立つことを志向している。