研究紀要第70号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第1年次」 -011/071page
であり、月に1、2度の帰宅である。たまの帰宅の際でも夫婦げんかが多いので、父親の足はますます遠のきがちである。そのため、物理的、心理的にも父親の存在感が希薄となり、母子家庭のようである。A夫と母親との結び付きは、A夫が成長とともに母親の生き方に対する見方が厳しくなってきたことによって弱まりつつある。
● 養育態度(母親との面接から)父親は、A夫の中学時代や今回の不登校に対して、「甘ったれるな。」とか「学校へ行け。」とか言って厳しくしっ責している。これは,本人に対する期待の大きさを表しているものと思われる。
母親は、A夫が小さいころから手のかからない子だったことや夜遅くまで店を開けて客の接待に追われていたこともあって、A夫にあまりかかわれなかった。しかし、今回の不登校という状況に対しては、親としてなんとかしてやりたいという気持ちになり、本人に対するかかわりを強く持ち始めた。● 家庭環境(A夫との面接から)
母親の経営するスナックには夜遅くまで酔客がいる。中には、A夫たちがいる部屋の隣りの座敷まで上がり込んでくる客などもいる。● A夫の考え(A夫との面接から)
以上の「新たに収集した資料」は、指導援助の経過の中にある家庭訪問の折に収集したものをまとめたものであり、指導仮説2の根拠でもある。
- 父親に対して
「父は立派だ。」がA夫の口ぐせである。また、尊敬する人物は一応、父にしておくとも言う。しかし、この気持ちは全く逆で、父親に対する憎しみが強いと考えられる。このことは、高校入学を祝って父親がプレゼントした通学カバンをハサミで切り刻んだことなどからうかがえる。- 母親に対して
「母はよく働く。」「酔客を相手にしている母はきらいだ。」とA夫は言っている。- 両親の仲について
夫婦げんかが絶えず仲が悪いので両親に対して不信感を持っている。- 自分自身に対して
A夫は、学校をやめて家を出たいと言う。しかし、自分が家を出てしまうと、今度は弟が自分と同じ立場になるからと言い、弟の面倒は自分が見なければと思っている。また、自己主張ができないで気持ちを内に抑えてしまって悩んでしまう自分がいやで情けないと思うことがある。5.診 断
<A夫の欠席が多くなってきた段階>● 診 断 1
授業態度や遅刻、早退、欠席の様子などから、不登校の兆候と考えられる。<A夫との面接及び家庭訪問で資料を収集した段階>
● 診 断 2A夫との面接から欠席は学校におけるいじめられや対人関係の不適応が原因ではないことがわかる。そこで、なんらかの家庭的な問題を起因とする不登校の兆候と考えられる。つまり、父親の単身赴任をきっかけとして両親の不和が進む中、A夫は夫婦げんかの絶えない両親とそれぞれの生き方に対して不信感をつのらせていった。そして、自己主張ができない性格のA夫は、両親に対する不満を不登校という形をとって自分の心を表現したものと思われる。
6.指導仮説● 指導仮説1
- 指導援助者は担任である。
- 上記の診断に対応させて指導仮説を記す。
登校刺激をなるべく控え、ラポールを深めながら欠席の背景を探る。
● 指導仮説21. A夫の欠席の背景について職員間の共通理解を図って、受容的に温かい態度で接する。