研究紀要第70号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第1年次」 -012/071page
2. 級友に働きかけて、話しかける,励ますなどによりA夫を援助する雰囲気をつくる。
以上のように、両親の関係が改善され、さらに両親とA夫との関係が改善されれば、A夫の情諸が安定し、不登校は改善されるものと思われる。
3. 級友による家庭訪問を計画する。
4. 父親への直接の働きかけは難かしいので、母親に対するカウンセリングを通して、母親と父親、また、両親とA夫との関係の改善を図る。
5. 本人にもカウンセリングをして、両親への不信感を除去する。さらに、自律訓練法を導入して情緒の安定と身体症状の軽減を図る。
6. 自己主張ができるようになった段階で、A夫と父親との対話の場を設定する。7.指導援助の経過
(1) 指導仮説1に基づく面接 (9月)担任がA夫に声をかけて相談室で面接、欠席の背景を探る。いじめられや対人関係の不適応ではないことがわかる。ラポールが深まり、今後の相談を約束する。
(2)指導仮説2に基づく指導援助 (10月〜11月)上記の面接後、A夫は断続的に登校。この間、級友によるA夫への話しかけや励ましが積極的に行われ、また担任や他の職員も受容的に接した。
● 自律訓練法の導入
この後、一時はよくなるかに見えたが、10月の中間考査を受験しなかった後から、欠席も連続的になる。
A夫が連続して欠席するようになってからは、電話で母親と連絡を取り合い、担任が家庭訪問を実施することにした。家庭訪問の時に段階的に自律訓練法を指導した。10月中旬から練習に入ったが、11月下旬までに予定の段階(第2段階―温感練習)にまで到達した。練習が進むにつれてよく眠れるようになり、肩こり、イライラなども軽減していった。
● 主張訓練A夫へのカウンセリングでは、A夫が両親に対して自分の気持ちや考えを表現できるようにすることをねらいとした。そのために、ロール・プレイングによる主張訓練を行った。以下はその一部である。
<担任が父親の役、電話によるやりとりの想定>父親:「A夫、学校へ行ってるのか?」
今までのA夫だと、ここで口をつぐんでしまった。しかし、このロール・プレイングによってこのように言えるようになってきた。
A夫:「いいえ……。」
父親:「なんだ、行ってないのか。この前、電話した時、必ず行けと言っただろう。」
A夫:「でも、身体の調子が悪いから‥…。」
父親:「また、身体の調子か。少しぐらいがまんしろ!」A夫:「お父さんは、ぼくの身体の調子がわからないからそう言うけど、本当に具合が悪いんだから……。」
この外、場面や役割を変えたりしながらロール・プレイングを実施した結果、A夫は自分の気持ちや考えを素直に表現できるようになっていった。同時に、ロール・プレイングを通して、父親が心配している気持ちや母親が一生けん命働く姿などについても理解を示すようになっていった。
父親:「なんだ、お前は!口ごたえするのか。」
A夫:「口ごたえじゃありません。本当のことだから言ったんです。」● 母親に対するカウンセリング
次の事項をねらいにしてカウンセリングを行った。
- A夫に対する母親らしいかかわり方
- A夫への気持ちの受け止め方
- 夫婦の協力