研究紀要第70号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第1年次」 -013/071page

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 この結果、A夫の気持ちを肯定的に受け止めるようになり、「学校へ行きなさい。」とか「少しぐらい気分が悪くてもがまんしなさい。」とかの言葉は言わなくなった。そして、やさしく話しかけたり、よく話を聴くようになったりした。またA夫の問題解決のために夫婦間での話し合いができてきた。さらに、夫婦の協力について考えさせていったところ、母親が、「私たちが変わらないといけないんですね。」と言うまでとなり、夫婦間の改善が図られた。

● 級友による家庭訪問

 級友からの自発的を訪問の声が以前からあったが、A夫の気持ちが安定してきた11月下旬から担任の判断で実施した。この級友による訪問はA夫の気持ちをさらに安定させるとともに、彼らの交友を深めるものとなった。

● 父親との対話

 ロール・プレイングによる主張訓練や級友による勇気付けなどによって、父親に対するA夫の気持ちや考えの表現が可能と判断した担任は、父親が休みで帰宅するのを機会に話し合うよう、A夫と母親に話した。また、母親には、その際にA夫の通学カバンを父親に見せるようにも話した。

 父親はA夫のために期待を込めて贈った高校入学祝いの通学カバンが、無残にもギザギザに切り刻まれているのを見て、問題が予想以上に深刻だったと痛感した。しかし、気持ちとは逆にA夫を責めた。ここで、A夫はせきを切ったように、今までの不満を泣きながら訴えた。また、母親も自分たちがしっかりしなくてはと訴えた。弟も見守る中、父親は自分の非を認めた。そして、これからは家族みんなで力を合わせていこうと約束し合った。

 こうして、A夫はすっかり落ち着きを取り戻すことができた。そして、12月からは心も新たに登校するようになった。級友達も温かくA夫を迎え入れ、また、担任をはじめ全職員もなにかと声をかけて励ましたりした。

 その後、学業面での立ち直りも著しく、2年に進級してからは、クラスの上位でがんばっている。

8.考   察

 本事例は、A夫と父親との劇的をやりとりの後、一気に解決へと向かっていったが、夫婦間が改善されていったこと、自己表現ができるようになっていたことが背景となっていると思われる。
 この事例で、問題を解決できた要因としては、次のことが挙げられる。すなわち、問題の早期発見と妥当を診断、指導仮説、適切な指導援助である。そして、なによりも大事なことは、問題行動は心の訴えであるととらえた担任が、熱心に取り組んできたことであろう。

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