研究紀要第70号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第1年次」 -015/071page
(2)家族に関する資料
● 家族関係のシステム、力動 A子が小学1年のとき父方の祖父母と同居するが、嫁、しゅうとめの関係がうまくいかず家庭内のごたごたが続く。小学5年のとき二人の激しい確執がきっかけで祖父母と別居した。父親は別居の責任を母親になすりつけ、母親は祖母の肩を持つ父親に失望して二人の関係が悪化し口論がたえなかった。父親は二度にわたって家をとび出す事件を引き起こし、一時は離婚ざたになりかけたが、現在は落ち着きをみせている。しかし夫婦間のしこりは消えていない。
● 家族構成● 両親の性格と養育態度
父親は学校の役員を務めるなど対外的には積極的であるが、家庭内では権威がなく、男性性、父性性に欠ける。面接場面では落ち着きがなく神経質に振る舞う面がみられ、自分の過去について言及することを避けようとした。A子に対しては弁当を作ってあげたり、車で学校へ送っていったり、必要以上にかわいがったりかばったりする面がみられる。母親は父方の祖母と争う気の強さを持っている。A子が幼いころから勤めに出ており、子どもの養育は祖父母に任せることが多かった。祖母とのいざこざや夫に対する不信や心配で心を悩ますことが多く、常に情緒が不安定であったため、A子の甘えを受け入れたり、不安を解消したりするようなかかわりが十分果たせなかった。
5.診 断祖父母の同居に伴う家族関係の悪化はA子の情緒的混乱を引き起こし、暗いかげを落とした。その結果、対人関係に暗さが生じ、生来の内向的性格も加わって集団不適応状態に追い込まれていったと思われる。思春期に差しかかり自分自身についてよく考えるようになると、両親の不仲や父親の問題を自分のことのように深刻に受けとめ、ますます不安が強まってそのことだけにとらわれるようになってきた。
しかし、この不安を除去する手段や方法は見い出せず、学校にいても憂うつな気持ちに閉ざされ友達との交流を図れないまま孤立化を深めていくだけであった。話し相手や遊び相手のいない学校生活はA子にとって精神的な苦痛であり、この苦痛から逃れようとして保健室への逃避や早退を繰り返したものと考えられる。
6.指導仮説家庭環境を改善しA子の情緒を安定させること学校環境を改善し徐々に集団への適応を図っていくことが必要である。そのために、
<家庭では>(1)夫婦間のしこりをなくし、夫婦関係の調和と連合を強め、そのことをA子にも分からせる。
<学校では>
(2)父親としての役割、母親としての役割を発揮し、両親共にA子に対して愛情あるはたらきかけをさかんにする。(1)担任は、A子の不安や悩みを受けとめ、温かい言葉かけを実行する。
(2)校内における諸活動(学習活動、部活動、学校行事)場面で、A子の長所を発揮させる機会を