研究紀要第70号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第1年次」 -017/071page

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疲れなかった?」
「ヘアースタイルが変わったね。とても素敵よ。」
 担任のさりげない言葉かけや思いやりにみちたかかわりに本人は親しみを感じ、次第に心を開くようになった。

● A子に孤立感を与えないようを学級の雰囲気づくりにつとめる。

担:「きょうもA子さんが早退してしまいました。どうしてだか先生にもよく分からないけど、A子さんはとても疲れているのだと思います。でも頑張って学校に来ています。みんなで何かA子さんにしてやれることはないかしら。」

 この働きかけの後、級友たちがやさしい言葉かけをするようになった。なお、クラス担任が席がえを意図的に行い、親切で気のきく級友を近くに配置した。

● 学級への所属感を持たせる。

担:「もうすぐ水泳大会ね。」
本:「でも、私泳げないんです。」
担:「みんなで応援するから勇気を出して頑張ってみない?」

 担任や級友の励ましにより水泳大会に出場し、途中何度も足をつきながら頑張り通したことで大きな拍手がわいた。個人得点を獲得してクラスの団体優勝にも貢献した。

● 本人が得意とするものに取り組ませ賞賛することによって自信をつけさせる。

担:「A子さんにぜひポスターを描いてほしいんだ。」

翌朝さっそくA子が仕上げてきたポスターを見て

担:「もうできたの、さすがA子さんのことだけあって素晴しいできばえだわ。A子さんにお願いして本当によかった。」
部:「A子さんは歌が好きのようだね。ぜひ合唱クラブに入ったら。」

 部活顧問教諭のさりげない勧めで合唱クラブに入部する。初めのうちこそ欠席が多かったが、夏休み2学期と練習に励み、大会にも参加できたことにより自信を深めた。

養:「A子さん、この計算手伝ってくれないかな。」
  「ありがとう、A子さんのおかげでとても助かったわ。」

 保健室において養護教諭は受容的なかかわり方をするとともに、A子ができる仕事を手伝わせた。また、さりげなく保健委員の生徒との交流を図ることにより、自然に集団生活になじめるように配慮した。

 以上のような指導援助を繰り返すなかでA子の不適応状態が次第に改善され、2学期からは身体症状を訴えることや保健室に逃避したり早退したりすることがなくなった。現在では親しい友人もでき、先生や級友に笑顔で話しかける姿も見られるまでになった。

8.考   察

 祖父母の同居に伴い、家族関係のバランスがくずれてそのしわよせがA子に強くのしかかっていったことは明らかである。家族の危機を訴えるA子のサインに両親が気づき、夫婦連合を強めながら自らの役割を自覚してA子に密接にかかわったことにより、理想的な家族システムが築かれていった。このことはA子の不安を解消し、情緒を安定させて外へ向かう力をとりもどすのに十分であった。

 担任教師や養護教諭がA子の気持ちを受けとめ、ときには思いやりにみちた言葉をかけて不安を和らげ、ときには励ましの言葉をかけて積極的な心を育て、対人関係を広げていったことは適切であった。

 更に、孤立しているA子に対して、級友の援助の手が数多く寄せられたことは素晴しいことであった。このことが本人を救うばかりでなく、学級そのものの成長に大きな力となっていったことは特筆すべきことである。


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