研究紀要第70号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第1年次」 -019/071page

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3. 養育態度 (3)学校における指導経過

 入学当初は、恥ずかしがらずに話すように言い聞かせ、口をきいたときはほめるようにしていた。しかし、このようをかかわり方では、一層緊張して口を閉ざしてしまうことから、以後は話さないことを注意しないよう配慮した。更に、授業中は作業学習を多くし、小グループで活動させるようにした。また、休み時間にはA夫と共に遊ぶよう心がけた。このようをかかわり方を3学年末まで続けてきた。

5.診   断

 乳幼児期の病弱と始語の遅れを家族が大変気にしたことから、A夫は人前で話すことに神経質になった。また病気がちであったことから、過保護に扱われ、幼稚園入園も遅れ、友達遊びも少なかった。そのために、年齢相応の対話の技能の発達が遅れたものと考えられる。

 このような「話すことに神経質」「対話技能の未熟」という状態で幼稚園に入園して間もなく、「突飛な発語と幼児語」を友達に笑われ、先生に注意され、更に母親にしかられた。この恥辱に、"気にしやすい"性格が加わり、A夫はそれ以後幼稚園や人前で話そうとすると緊張し、しゃべられなくなったものと思われる。以来くり返ししゃべらないことを先生や両親に注意され、しかられ友達に笑われた。このことが「人前で話すこと」への心理的を圧力となって、いわゆる心因性の選択性かん黙に陥ったものと考えられる。

 小学校入学後、学校の熱心な指導援助にもかかわらず、問題改善の進捗(ちょく)状況がはかばかしくないのは、"かん黙" に関する理解と対応が適切性を欠いているためと思料される。

6.指導仮説  ―指導援助は主に担任が行う―

(1)かん黙の状態を分析し、これまでのかかわり方を振り返ることにより、かん黙を改善するための手がかりを得る。

(2)A夫に対しては遊戯療法及び作業療法を、両親や祖父母に対してはカウンセリングを中心にして指導援助を進めることにより、A夫は人前で話すことの緊張感が緩和し、言動に自信をもち、かん黙の状態が改善されるものと考えられる。

1. 家庭では
   ア.A夫に対して"しゃべる"ことについての緊張を解くために、心理的を圧力をかけないよう心がける。
   イ.A夫にできる家事を分担させ、その過程や結果を認め、励まして自信をもたせる。

2. 学校では
   ア.遊び(遊戯療法)により担任や友達とのラポールを深めると共に、A夫に対して、しゃべることについての緊張を解くため、心理的を圧力をかけないよう心がける。
   イ.小集団の中で協働させる、学級の仕事を分担させるなどの作業療法により、自然に話す機会を設けたり、行動に自信をもたせたりする。
   ウ.電話で話す、絵画を介して話すなど、さりげなく対話する機会をつくる。


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