研究紀要第70号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第1年次」 -020/071page

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7.指導援助の経過

(1)"かん黙状態"の分析とこれまでのかかわり方についての振り返り (指導仮説(1))

 4月、担任が両親及び祖母と面接し、A夫が普通に話す場面、黙ってしまう場面を明らかにすると共に、これまでの家族や担任のかかわり方について互いに振り返りをした。

 <普通に話す場面>
 家庭ではだれとでも話す。電話にも出る。
 屋外や校外では、仲のいい友達や知り合いの人たちとは普通に対話する。自分から話しかけることは少ない。
 学校では、授業外なら仲のいい友達とは多少口をきく。授業中でもみんなで国語の朗読をさせる場合などは、小声でみんなの後について読む。

 <しゃべらない場面>
 授業中や集会時には、指名されても応答しない。グループでの話し合いのときも黙っている。
 協働作業中でも、必要があるのに話さない。
 遊びの中でも自分からは話さない。

 <家族や担任のこれまでのかかわり方>
● 家庭では
 毎日、学校でしゃべれたかどうか聞いていた。
 授業中に発表したら、ごほうびに、欲しい物買ってあげるなどと言って励ましていた。
 A夫の前で、よその人に "しゃべれないこと"について、ぐちを言ったことがよくあった。
 授業参観の後、帰宅してから"しゃべれなかったこと"を注意したり、しかったりしていた。

● 学校では
 恥ずかしがらずにはっきり返事をしたり、答えたりするよう言い聞かせてきた。
 黙っているとみんなに笑われたり、自分が損をしたりするから、話すよう言い聞かせてきた。
 少しでもしゃべれたときは、みんなの前でほめるようにしてきた。
 友達には、A夫がしゃべったことを聞いたら、先生に知らせてくれるように頼んでおいた。そして、友達からの報告があった場合は必ずみんなの前でほめるようにしていた。
 しかし、これらのかかわり方は、かん黙の子どもに対する指導としては不適切であったとの反省に立ち、次のような手だてを講じることとした。

(2)話すことの緊張を解く指導援助 (指導仮説(2)1−ア、2−ア)

(1) 家庭では
 "学校でしゃべらない"ことについては一切注意しない。例えば次のようなことは言わない。

(2) 学校では
 A夫と担任や友達とのラポールを深める。
 A夫と共に遊ぶ。その際はA夫に遊んでもらうつもりで相手をする。スキンシップを図る。
 協働(グループ活動)をさせる。
 返事がなくても、動作や表情で答えているものと考え、やさしく語りかける。
 担任も友達も、"しゃべらない・しゃべれた"などについては、一切口にしないようにする。

 〔遊び−遊戯療法−の実際〕

● 登り棒やジャングルジムで遊ぶ。A夫と先生や友達が、互いに手を引っぱり合ったり、お尻を押し合ったりした。初めは体も固く、小声だったが、次第に声が大きくなり、笑ったり、かけ声をかけたりするようになった。
● ジャンケン遊び(ジャンケンで負けた者が勝った者を背負って歩く遊び)をする。先生や友達におんぶされたり、先生や友達をおんぶしたりして大喜びだった。初めは動作だけであったが、次第に「ジャンケンポン」「センセ、重い…」など、声が出るようになった。

 〔作業―作業療法―の実際〕

● 二人一組になって行う作業をさせる。清掃時、二人で大きなバケツに水をくむ当番を割り当てた。また、給食の食器の運搬を二人一組でさせた。作業中、自然に会話をしていたようである。


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