研究紀要第70号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第1年次」 -021/071page

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(3)行動に自信をもたせるための指導援助 (指導仮説(2)1−イ、2−イ)

(1) 家庭では
 継続して行う家事(犬とにわとりの世話)を分担させた。4月以来12月現在まで毎日続いている。夏にはボーナス3千円をもらい、大喜びだった。次の日の朝、教室で担任のそばに寄り、小声で、

A夫:3,000円もらったの…。
担任:へえ…どうしてそんなにたくさん?
A夫:にわとりのせわをして…。
担任:ほう……大したもんだね…えらいね…。

(2) 学校では
 出席カード係(毎朝始業前に職員室で教頭から受け取り、1校時終了後教頭に提出する係)にする。

教頭:(ノックはしたがあいさつなしで入室した子どもを背後にA夫と察知し、故意に背を向けたまま)昨日日曜日はどこへ行って釆たの?
A夫:S町へ…。
教頭:だれと?
A夫:父ちゃんと……プラモデル買ってきたの・・・。
教頭:そうかい、それはよかったね。
A夫:こんど、教頭先生にプラモデル見せるね・・・。
教頭:(対面して)それは楽しみだ……出席カード、毎日届けてくれて有難う。えらいね…。
A夫:(ニコニコして)失礼しました。(退室)

 これは教頭との初めての職員室での対話である。

(4)さりげなく対話する指導援助 (指導仮説(2)2‐ウ)

(1) 電話で話す
 A夫は家に電話がくると最初に受話器をとることが多いことから、担任は意図的に電話で話すことを試みた。初めは簡単な言葉で答えられる会話から次第に普通の会話へ発展するよう配慮した。

 〔6月〕
担任:モシモシ、○○先生ですけど、A夫君?
A夫:はい、そうです。
担任:いま、なにしていたの?
A夫:犬と遊んでいたの…。
担任:A夫君の家に、今卵ある?売ってくれる?
A夫:あるよ…10こずつ売るの…。
担任:今すぐほしいんだけど、お父さんに聞いてみてくれる?
A夫:はい、ちょっと待ってて、聞いてくるから。

(2) 絵画を介して話す
10月 授業 図画工作 題「犬のせわ」

担任:(机間巡視をし、題と内容を聞いた)これは何をしているところをかいてるの?
A夫:(小声で、やや緊張し、周りを気にしながら)いぬ…いぬにえさをやってるの…。

8.考   察

 指導援助の結果、次のような変容がみられた。
  1. 集団の中での緊張が和らぎ、表情もおだやかになってきている。
  2. 活気が見られるようになった。特に遊びの中では声を出して話すようになってきている。
  3. 職員室の入退室のあいさつができるようになってきている。
  4. 授業中、小声で応答できるようになってきている。
 これらの変容は、次のような指導援助の成果によるものと考えられる。
  1. 遊戯療法によりラポールが深まり、A夫が心を開いたこと。
  2.                     
  3. "しゃべらないこと"ヘの注意や叱(しっ)責、"話したこと"ヘの称賛など、心理的な抑圧や負担になるようなかかわりを一切しなかったこと。
  4. 作業療法の中で、仕事を任せられ、それを認められて行動に自信をもったこと。また、作業に集中することにより、話すことへの意識や緊張感が薄れたこと。
  5. 会話の際、緊張させないために、目を見ないでさりげなく話しかけたこと。
  6. 電話及び絵画を介してさりげなく対話したこと。
  7. 家族の協力を得ながら、全職員の共通理解と、温かい、しかも継続的な指導があったこと。


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