研究紀要第70号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第1年次」 -024/071page
7.指導援助の経過
(1) 医師との連携医師の診察により「強迫神経症」と診断され、定期的に医学的治療を進めることになった。当教育相談部では、専門医との連携を図りながら心理的な指導援助を進めることにした。
以下、当教育相談部で行った心理的指導援助の経過について述べる。(2)A子へのカウンセリング
カウンセリングのなかでまずカウンセラーが心がけたことは、A子に対する温かい受容的態度と共感的理解であった。カウンセラーはA子の言葉にじっと耳を傾け、A子のあるがままの姿を受け入れるようにつとめた。(A:A子、カ:カウンセラー)
A:「誰もが私の悪口を言っているように聞こえてくるんです。」
カ:「悪口が聞こえてくる‥……」
A:「授業中も友達の視線を感じ、顔をあげて黒板の字を見ることもできないんです。」
カ:「そうなの……‥」
A:「夜もいろんなことが頭に浮かんできて、眠ろうとしても眠れないんです。」
カ:「それはつらいだろうねえ。」
このような許容的で非審判的なカウンセラーの態度は、A子の緊張を解き、不安から解放して自由な感情の流れを表出させるうえで有効であった。
A:「友達がどんどん私から離れていってしまうんです。でも、どうでもよいことだと思っているから仕方がない。」
「友達なんて欲しいと思わない。考えると憂うつになってしまう。」
「でも、このままではいや。どうにかなりたい。」
A子はカウンセリングを通して自分をみつめ、自分自身を語ることによって、おぼろげながら自己の問題に気づき、解決への意識を持ち始めた。
カ:「どうなりたいの?」
A:「本当の自分が分からない。今の悩みをなくして、友達関係をよくしたい。」YG性格検査を実施し、問題の所在を明らかにするとともに検査の結果を伝えると、今までに気づかなかった自分の性格傾向や態度などに目を向け、自分のものの見方や考え方を整理して現実の自分を検討し、把握するようになった。
A:「内気でひっ込み思案な性格なんですね。」
カ:「それは君が思慮深くて、物事をよく考えてから行動に移すタイプということなんだよ。」
A:「そのために決断がにぶって行動できないでしまうことがよくあるんです。」
「神経質で過敏すぎるんですね。だから友達の言葉がすごく気になって仕方ない。」
カ:「過敏ということは感受性が豊かということで決して悪いことではない。でも、外からの刺激をストレートに受けやすいため、周りのことが気になって何となく不安になるんだね。」
A:「周囲に左右されないようになりたい。」
カ:「しっかりした自分の考えを持ちたいということかな。」
A:「いろんをことを考えてしまい、どうしてよいか分からなくなってしまう。」
「もっと自分を知ってみたい。」
カウンセラーは更にエゴグラムを行うことをA子に提案した。
人へのかかわりが薄い。理くつで割り切ろうとする。周囲を気にして自分をおさえすぎる。親の言うことを素直に受け入れることなどがうかがえる。