研究紀要第70号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第1年次」 -029/071page
使うようにさせた。なお、むやみに小遣いを欲しがった時は、がまんの心を育てるようにさとした。
(4)家族関係や養育態度の改善をはかる指導● 学校から家庭に対する連絡等は、すべて父親に直接伝え、父親としての自覚と意識を高めるようにした。
● 家庭では、面接の結果次のような努力をすることにした。<その結果>
- 夕食時、父親は子どもたちに学校の様子をひとつ質問する。また、父親自身も話題をひとつ提供し、父の考えを述べる。
- 母親は必要以上に口をはさまず、父親の話をもり立てるようにする。またA男を呼ぶ時は、4年生でもあるので、「A男ちゃん」ではなく、「A男」ときちんと呼ぶ。
最初、父親は「話題がない。」「話しにくい。」などと消極的であった。しかし当教育相談部でのロールプレイングにより、ぎこちなさはあるが、少しずつ話せるようになってきた。母親の父親を支持する発言は、父親の自信にもつながり、夫婦関係修復の一助にもなった。最近では夫婦で話題を探すほどにもなり、コミュニケーションも増えてきた。母親は、「A男」と呼ぶことに初めは納得できない様子であったが、最後にはこんなことを話してくれた。「女の子がほしくて、まるで生きた女の子の人形のように扱いわがままな子にしてしまったのは、私のせいだったのかも知れませんね。A男を大人にさせたくないという気持ちが、心のどこかにあったんですね。」
父母は祖母に対して、今までの苦労をねぎらうと共に感謝の言葉を述べた。これからは自分達の子どもなのだから、夫婦で協力して教育していかなければならないことを話した。祖母も納得した。なお、次第に、祖母と他の家族との関係もよくなっていった。8.考 察
相談面接が終了し1年になるが、その後症状はあらわれていない。本事例が改善された理由をあげてみる。
1.診断、指導仮説が適切であった。
2.学校と当教育相談部の連携が良かった。
3.父親、母親としての自己洞察がすすみ、養育態度が改善された。
4.家族システムが次のように改善された。
ここで忘れてならないのは、「A男を敵視した時は、先生の負けだよ。」の教頭先生の言葉をかみしめ、最後まで援助の手をさしのべ続けた担任の先生の姿である。また、「治ったのは、学級のみんなのおかげです。」と頭を下げた母親の姿は、実に印象的であった。