研究紀要第70号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第1年次」 -037/071page
A:「お父さんもお母さんも、弟ばっかりかわいがってさ………私も弟はかわいいよ…‥…。」
● マラソン大会まであと数日、「びりになってもだれも笑ったりしないよ。」「3年生は全員完走しようよ。」との級友の声にはげまされ、見事に2位に入賞した。この成果を両親とともに大いにたたえた。
担:「小さい子のめんどうみがいいんだね、A子は。」
A:「お姉ちゃんは何でもできるからすごいんだ。でも、何でも命令するから嫌いだ。」
担:「A子は自分でできるようになりたいんだね。」
A:「お父さんはこわいよ。なぐるんだもん。」
担:「おしっこ、もらした時かい?」
A:「1年生の時ね。‥……だからお父さんには、わからないようにしてるんだ。でもこの頃お母さんはやさしくしてくれるのでうれしいんだ。」● 母親との面接で
<その結果>
母:「主人は子どもがかわいそうなくらい叱るんです。A子には特に。私も主人との折り合いが悪かったものですからいらいらしていて。どこか良いところを見つけてほめてやらねばと思ってはいるのですが。どこをどうほめていいのかわからなくて。」
担:「すばらしいですよ、お母さん。いつでもそんな気持ちで接すれば……A子はいい子ですよ。」
母:「考えてみれば、かわいそうな子だったんですね。主人にも話してみます。」
(ここでほめ方をロールプレイングで練習する)
- 母親に素直に甘えるようになった。
- 洗顔、歯みがき等の習慣が身につき、身なりもきちんとしてきた。
- A子から友達に働きかける姿が見られるようになった。
- バウムテストでも、内容が少しずつ豊かになってきている。外界に対する対応の仕方が変わってきているのがわかる。しかしまだまだ温かく包まれたいという願望は残っている。
(4)1月〜3月(おもらし0回)9,4
● 学校では、代理父親(学級担任があたる)代理母親(養護教諭があたる)を次の理由で設定した。
- 問題の改善を更に図る。
- 「どうしてA子だけが厳しくされないの?」という不満の声を学級経営上無視できなくなった。
- 父親の協力があまり得られない。
- 包み込むやさしさと同時に、ものごとに立ち向かう厳しさをも経験させる段階に入っている。
代理父親の役割 → けじめやきまりの大切さの指導。
<その結果>
代理母親の役割 → 友達とのいさかいがあった時など、なぐさめ甘えさせ聴いてやる。
・担任に対するべたべたしたまつわりつきがなくなった。
・遊びや係の仕事でいやな事があっても、泣きさけぶことはなくなった。
・授業中ノートをとるようになり、また宿題の忘れなども少なくなった。8.考 察
バウムテストからは、外界に対して伸びようとする意欲がみえてきた。内面の成長もみられ、固さもとれてきた。
ソシオ・メトリックテストでは、排斥は1名のみと減り、逆に選択する子が4名に増えた。
問題解決の理由として
- 担任とのラポールがとれた。
- 継続的に治療を行った。
- 「A子も同じ学級のひとり」という担任の考えに、学級全体をうまく同調させることができた。
- 担任の熱意が母親の心を動かした。改めて教師の姿勢や努力の大切さを痛感させられた。