研究紀要第70号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第1年次」 -052/071page
め、A子は母親の言うまま、素直で「よい子」に育ったものと考えられる。そのため、家庭内において、自己主張することが少なかった。進路問題では、母親は自分の母校である「B高校」へと受験校に対する期待をA子にかけていた。この期待の重荷を両親に話すこともできず心の負担となって次第に食欲も落ち、現在の問題が生じたものと考えられる。すなわち、現在の症状は、A子の最大の自己主張ととらえることができる。なお、以上の背景には、家庭内が体裁を重んじたり、争いを避けたり感情を自由に表現しない、更に、夫婦間の本来的な信頼感の脆弱さが存在する。母親の生き方に対し、A子が批判的にみていることも大きな一因である。
5.指導仮説
主に当教育相談部が指導援助に当たる。
家族関係の改善を図り、A子が自由に自己主張、表現できるようになれば、問題行動は解決すると考えられる。なお、専門医との連携を取りながら指導援助をすすめる。(1)生命の安全が保たれるよう周囲がさりげなく常に配慮する。
(2)進路問題については本人の意志を尊重する。
(3)家族関係の調整を図る。特に、夫婦間ならびに父親と本人との結びつきを強める。
(4)家族が自由に自己主張できるようにさせる。
(5)母親の職場における望ましい対人関係のあり方に気づかせる。
(6)A子の食事に関して注意を与えたり、指摘したりしない。
6.指導経過
指導仮説と対応させて述べる。(1)体重減少について
● 体重が減少していく場合には、専門医に委任する方針であった。しかし、体重の減少は認められなかった。(2)カウンセリングの中で、母親が、本人の実力を考えず母親の希望する進学先を押しつけていたことに気づき、本人の希望に任せる気持ちになってきた。
(3)家庭内が父親中心の生活になるよう助言した。なお、当教育相談部から家庭への連絡は、常に父親にした。その結果、初めて父親が来所し「娘が中学1年の時に、今の仕事に転職したんですよ。会社の仕事が忙しかったものですから。家内に任せておくと安心だし…。娘の進路? A子と話したことがなかった。当然B高校と思ってましたから。」と話す。「A子の考えを尊重して進路を決めるようにしたい。1年くらい遅れてもいい。」と父親の考えを述べた。母親の本人へのかかわり方や母親の職場での人間関係のあり方などについて、父親の考え方を主張できるよう支持した。母親には、父親の存在が大切であることを説き、父親を前面に出すような対応が大切であることを気づかせた。(4)各自が思っていること、感じていることを自由に表現できるよう、ロールプレイングで練習した。その結果、、次のような家庭の様子がみられた。
- 母親が泣きながら「お母さん独りで、こんなにみんなのことを心配して話しても、だれもこたえてくれない。」と言った。
- それに対し、本人は「お母さんの勝手でしょう。」と大声で言い、ドアをバタンと閉めて自室に行った。自己主張できた自分に驚いたと話した。
- 父親は、「お母さんは、もう限界だ。お前は入院してくれ。」と言った。「お母さんと離れるのは、いやだ。」と、A子が入院を拒否した。お母さんのことを心配しているお父さんを初めて見たとA子が話した。
- 「○○のコンサート」に行きたいと、両親に話した。「母親と一緒に行くことは、頼りにならない。」と父親が言った。母親は父親の意見に賛成した。
- 「いつまで、テレビを見ているの?お風呂に入