研究紀要第70号 「事例を通した教育相談の進め方に関する研究 第1年次」 -061/071page

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しがついたことが、将来への希望を持たせ、情緒の安定につながった。

● 両親に対する指導援助(当教育相談部でのカウンセリング)

(1)親としてのA夫へのかかわり方

 力ウンセリングの中で、次のような問いかけをしながら、親としてのかかわり方がどうあればよいのかを考えさせていった。

 1. 幼少時のかかわり方
   「小さいころの養育はどのように?」
   「ぜんそくについての医師の診断は?」
   「夜尿は、夜の何時ごろ?」

 2. 問題行動への対応のし方
   「たぼこを吸っているのがわかった時はどうしましたか?」
   「服装が乱れた時は?」
   「シンナー吸引がわかった時は?」

 この結果、幼少時のぜんそくや夜尿は両親のかかわり方が薄かったことによることと、問題行動への対応は常に叱責と暴力であったことに気づいた。そして、この後のカウンセリングの中で、話し方による対人交流のし方に気づかせて、A夫への言葉かけに注意させていった。

(2)両親連合の強化のために

 まず、母親がA夫の心の基地になることが問題改善の大前提であることを強調して、母親の温かく優しい積極的なかかわりを図った。次に、問題解決のために大事なことは、夫婦仲の改善であることを理解させ、さらに、このためには父親としての自信を持たせることが必要であることに気づかせていった。

 この結果、まず、母親の心情に変化が見られた。それとともに、母親とA夫、母親と父親との関係改善が進み、最終的にはA夫と父親との人間関係の修復がなされていった。

8.考   察

 A夫の問題行動改善の道すじを図示すると次のようになる。

問題行動改善の道すじ

 シンナー吸引をする子ども達には、不安や現実から逃避したいという願望があるが、この背景は家庭における親子間の愛情の希薄さであることが多い。この点で、本事例も全く同様である。そのため、愛情飢餓の状態から愛情が充足された状態へと改善されたことが、問題行動の改善につながったわけである。この過程で、母子関係の改善を図ることによって両親連合の強化へと進めた点が、この事例のポイントであり特色でもあると言える。また、学校と当教育相談部との連携を深めながら進めたことも効果的であった。

 しかし、シンナー吸引等の薬物依存は再び繰り返されやすく、予後は不安定なことが多いので、今後も温かく見守ることが必要である。


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